・・・ 私はカルモチンをたくさん嚥下したが、死ななかった。「死ぬには、及ばない。君は、同志だ。」と或る学友は、私を「見込みのある男」としてあちこちに引っぱり廻した。 私は金を出す役目になった。東京の大学へ来てからも、私は金を出し、そう・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・三日分くらいの食料を持参して来たのだが、何せ夏の暑いさいちゅうなので、にぎりめしが皆くさりかけて、めし粒が納豆のように糸をひいて、口にいれてもにちゃにちゃしてとても嚥下することが出来ぬ。小牛田駅で夜を明し、お米は一升くらい持っていたので、そ・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ 私はそれを嚥下して首肯し、この医師は以前どんな鰻を食べたのだろうといぶかった。「台所の科学ですよ。料理も一種の科学ですからね。こんな物資不足の折には、細君の発明力は、国家の運命を左右すると、いや冗談でなく、僕は信じているのです。そ・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・ップの缶を取りだし、実にどうにも気障な手つきで、――つまり、人さし指と親指と二本だけ使い、あとの三本の指は、ぴんと上に反らせたままの、あの、くすぐったい手つきでチョコレートをつまみ、口に入れるより早く嚥下し、間髪をいれずドロップを口中に投げ・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・それでも結局はどうにかして嚥下してしまった。 この数日の間にあひるの生活にはずいぶん大きな変化があったが、しかしその変化が結局あひるのために有利であるかどうかはわからない。われわれ人間はただ自分たちの享楽と満足のために、かわいがるつもり・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・兵卒一直ちにこれを嚥下特務曹長「次のは何でありますか。」大将「ファンテプラーク章じゃ。」外す。特務曹長「あまり光って眼がくらむようであります。」大将「そうじゃ。それは支那戦のニコチン戦役にもらったのじゃ。」特務曹長「立派・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
出典:青空文庫