・・・良人であり父親であるこれらの官吏たちが、わが妻、わが子をつれてたまの休日にいざ団欒的外出と思うとき、第一、そのつつましいたのしさをうちこわすものは何だろうか。交通地獄の恐怖である。検事局と書いた木札を胸にかけて、乗ろうとする粗暴な群集を整理・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・この事は実際上、良人や子供の理解なしにはなりたたないから、好都合な事情で運べば、よい妻、いい母さん、そして手芸であれ、エッチングであれ何か一つの仕事をもった女主人として、描かれる一家団欒の画面は非常にこまやかで活溌な生気に溢れていることも想・・・ 宮本百合子 「現実の道」
八月のある日、わたしは偶然新聞の上に一つの写真を見た。その写真にとられている外国人の一家団欒の情景が、わたしの目をひいた。背景には、よく手入れされたひろい庭園と芝生の上に、若い父親が肱を立ててはらばい、かたわらの赤ン坊を見・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・と思ったとき、この平和な元日の朝にこそ、その顔をみたい大切な男の人々を団欒の中から失っている日本の数百万の婦人の胸のなかはどんなだったでしょう。 この深い思いは、決して日本の婦人、イタリーやドイツの婦人たちだけの思いではありませんでした・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・ ああ云う風に銘々の好むところで自由にやっていて而も団欒して行くということを、自分たちの家庭で実現出来ることとして楽しんで見たでしょうかそれとも全体として価のない作品だとお思いになったでしょうか。その二つの見方はどっちも、それだけの理由・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・冴え冴えとした夜の明りは、何ヵ月も薄くらがりにかくしていた家の様子をはっきりと目に見させ、それとともに、この灯の下に、団欒から永久にかけてしまった、いとしい者のあることをも、今さら身に刻みこむ鮮やかさで思い知らされたのであった。灯のついたは・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・今日、私の貧弱な常識の中に、ほんの少しばかりでも建築・美術についての内容が加えられているのは殆ど皆、こういう父の手帳を中心にしてこの団欒の遺産です。 晩年になってから、父は夕飯後の食堂で手帳をひろげることが追々少くなりました。仕事に対す・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・東と西とが団欒する客間の椅子では語られず、聴かれない、おくれ毛の人生的なそよぎが「うつしえ」一篇にみちている。「うつしえ」の女主人公は、ニューイングランド出の婦人宣教師C女史である。彼女が二十五歳で中国のキリスト教女学校に赴任して来たとき、・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・けれども、可愛がられ、可愛がる明るい、賑やかな団欒と、芸術とを釣代えに、どうして出来るだろう。それは自分は、偉大な芸術家ではないし、神のような人格者でもないから、人の心を傷けることはあるだろう。相すまなくは思う。が、どうぞ、私が窮極に於て何・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・しかし金を借りた義理があるので、杯をさして団欒に入れた。 暫く話をしているうちに、下島の詞に何となく角があるのに、一同気が附いた。下島は金の催促に来たのではないが、自分の用立てた金で買った刀の披露をするのに自分を招かぬのを不平に思って、・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫