・・・誰でも少し物を考える力のある人ならすぐわかることだと思いますが、生産の大本となる自然物、すなわち空気、水、土のごとき類のものは、人間全体で使用すべきもので、あるいはその使用の結果が人間全体に役立つよう仕向けられなければならないもので、一個人・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ある者は私をデカダンだと言い、ある者は大本教を信じているらしいと言った。しかし私は何ものをも信じていなかった。ただ一つ私は東京帝国大学の文科というものを信じていた。そこでの講義は高遠であり、私のような学識のない者は到底その講義を理解すること・・・ 織田作之助 「髪」
小は大道易者から大はイエスキリストに到るまで予言者の数はまことに多いが、稀代の予言狂乃至予言魔といえば、そうざらにいるわけではない。まず日本でいえば大本教の出口王仁三郎などは、少数の予言狂、予言魔のうちの一人であろう。 まこと・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・斯ういう気風は少年の時からあって、それが非常にやかましい祖父の下に育てられ、祖母は又自分に対する愛情が薄かったという風で、後に成って気欝病を発した一番の大本は其処から来たと自白して居る。明治十四年に東京へ移って、そして途中から数寄屋橋の泰明・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・僕は、君が僕に献身的に奉仕しなければもう船橋の大本教に行かぬつもりだ。僕たち、二三の友人、つね日頃、どんなに君につくして居るか。どれだけこらえてゆずってやって居るか。どれだけ苦しいお金を使って居るか。きょうの君には、それら実相を知らせてあげ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・学者のガウンをはげ。大本教主の頭髪剃り落した姿よりも、さらに一層、みるみる矮小化せむこと必せり、 学問の過尊をやめよ。試験を全廃せよ。あそべ。寝ころべ。われら巨万の富貴をのぞまず。立て札なき、たった十坪の青草原を! 性愛を恥・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・ ただこのごろの新聞紙上をにぎわすようないろいろの不祥な社会的現象は、それが大本教事件でも宝塚事件でも、すべてが直接これらの事件とはなんの関係もない南海の村落でこの「ナンモンデー」の廃止された事とどこかで連関していて、むしろそれの当然の・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・鶏とぶたは真実鳥獣なるが故に、五母二母孰れか妻にして孰れか妾なるや其区別もなく、又その間に嫉妬心も見えず権利論も起らざるが如くなれども、万物の霊たる人間は則ち然らず、人倫の大本として夫婦婚姻を契約したる其婦人が、配偶者の狂乱破約を見て不平な・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・かつまた、文脩まれば武備もしたがって起り、仏人、牆に鬩げども外その侮を禦ぎ、一夫も報国の大義を誤るなきは、けだしその大本、脩徳開知独立の文教にあり。今我邦に私塾を立つるも、この趣意を達せんとするなり。その得、五なり。 右所論の得失を概し・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・之を喩えば日本の食物は米飯を本にし、西洋諸国はパンを本にして、然る後に副食物あるが如く、学問の大本は物理学なりと心得、先ず其大概を合点して後に銘々の好む所に従い勉む可きを勉む可し。極端を論ずれば兵学の外に女子に限りて無用の学なしと言う可き程・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫