・・・一同大笑いになる。王子はすごすご起き上りながら、酒場の外へ行こうとする。主人 もしもし御勘定を置いて行って下さい。王子無言のまま、金を投げる。第二の農夫 御土産は?王子 (剣の柄何だと?第二の農夫 い・・・ 芥川竜之介 「三つの宝」
・・・「それがね、旦那、大笑いなんでございますよ。……どなたもいらっしゃらないと思って、申し上げましたのに、御婦人の方が入っておいでだって、旦那がおっしゃったと言うので、米ちゃん、大変な臆病なんですから。……久しくつかいません湯殿ですから、内・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・を振返って見ると、出水どころか、道もからからに乾いて、橋の上も、平時と少しも変りがない、おやッ、こいつは一番やられたわいと、手にした折詰を見ると、こは如何に、底は何時しかとれて、内はからんからん、遂に大笑いをして、それからまた師匠の家へ帰っ・・・ 小山内薫 「今戸狐」
・・・の何枚目に書いてありました』などとまぜ返しを申し候ことなり、いよいよ母上はやっきとなりたもうて『お前はカラ旧癖だから困る』と答えられ候、『世は逆さまになりかけた』と祖父様大笑いいたされ候も無理ならぬ事にござ候 先日貞夫少々風邪の気ありし・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・だんだん聞くに六町一里にて大笑いとなりぬ。昼めし過ぎて小繋まではもくらもくらと足引の山路いとなぐさめ難く、暮れてあやしき家にやどりぬ。きのこずくめの膳部にてことごとく閉口す。 十六日、朝いと早く暗き内に出で、沼宮内もつつと抜けて、一里ば・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・人々は大笑いに笑い、自分も笑ったが、自分の慙入った感情は、洒々落々たる人々の間の事とて、やがて水と流され風と払われて何の痕も留めなくなった。 その日はなお種々のものを喫したが、今詳しく思出すことは出来ない。その後のある日にもまた自分が有・・・ 幸田露伴 「野道」
・・・「オヤ、気障な言語を知ってるな、大笑いだ。しかし、知れるかノというノの字で打壊しだあナ、チョタのガリスのおん果とは誰が眼にも見えなくってどうするものか。「チョタとは何だ、田舎漢のことかネ。「ムム。「忌々しい、そう思わるるが厭・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・太郎さんもみんなと一緒に、威勢よくその笹刈りに出かけて行ったはよかったが、腰をさがして見ると、鎌を忘れた。大笑いしましたよ。それでも村の若い者がみんなで寄って、太郎さんに刈ってあげたそうですがね。どうして、この節の太郎さんはもうそんなことは・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・ひとりで、涙の出るほど、大笑いした。私は、考えれば、考えるほど、おまえには、ひどいめにあっていたのだ。あとから、あとから、腹が立つ。いまでも、私は、充分に怒っている。おまえは、いったいに、ひとをいたわることを知らない女だ。 ――すみませ・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・家中、いよいよ大笑いになって、それからは私の家では、梅川先生だの、忠兵衛先生だのと呼ばれるようになりました。この兄は、からだが弱くて、十年まえ、二十八歳で死にました。顔が、不思議なくらい美しく、そのころ姉たちが読んでいた少女雑誌に、フキヤ・・・・ 太宰治 「兄たち」
出典:青空文庫