・・・また幸福の島の女は、天使のように美しいということだ。昔から、その島へいってみたいばかりに、神に願をかけて貝となったり、三年の間海の中で修業をして、さらに白鳥となったり、それまでにして、この島に憧れて飛んでゆくのであった。白い鳥は、その島にゆ・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・ 飴チョコの箱には、かわいらしい天使が描いてありました。この天使の運命は、ほんとうにいろいろでありました。あるものは、くずかごの中へ、ほかの紙くずなどといっしょに、破って捨てられました。また、あるものは、ストーブの火の中に投げ入れられま・・・ 小川未明 「飴チョコの天使」
人間が、天国のようすを知りたいと思うように、天使の子供らはどうかして、下界の人間は、どんなような生活をしているか知りたいと思うのであります。 人間は、天国へいってみることはできませんが、天使は、人間の世界へ、降りてくることはできる・・・ 小川未明 「海からきた使い」
・・・ 文学は文学者にとって運命でなければならぬ――と北原武夫氏が言っているのは、いい言葉で、北原氏はエッセイを書くと読ませるものを書くが、しかし、「天使」という北原氏の小説は終りまで読めなかった。「天使」には文学が運命になっている作家北・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・少年は天使です。この時私の目には、六蔵が白痴とはどうしても見えませんでした。白痴と天使、なんという哀れな対照でしょう。しかし私はこの時、白痴ながらも少年はやはり自然の子であるかと、つくづく感じました。 今一ツ六蔵の妙な癖を言いますと、こ・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・絣の着物の下に純白のフランネルのシャツを着ているのですが、そのシャツが着物の袖口から、一寸ばかり覗き出て、シャツの白さが眼にしみて、いかにも自身が天使のように純潔に思われ、ひとり、うっとり心酔してしまうのでした。修業式のまえの晩、袴と晴着と・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・昔天国の門に立たせて置かれた、あの天使のように、イエスは燃える抜身を手にお持になって、わたくしのいる檻房へ這入ろうとする人をお留なさると存じます。わたくしはこの檻房から、わたくしの逃げ出して来た、元の天国へ帰りたくありません。よしや天使が薔・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・という一天使に浄化する事がどうしても出来ません。 私のいまの仕事は、旧約聖書の「出エジプト記」の一部分を百枚くらいの小説に仕上げる事なのです。私にとっては、はじめての「私小説」で無い小説ですが、けれども、やっぱり他人の事は書けません。自・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・私は、あなたこそ、その天使だと思っていました。私でなければ、わからないのだと思っていました。それが、まあ、どうでしょう。急に、何だか、お偉くなってしまって。私は、どういうわけだか、恥ずかしくてたまりません。 私は、あなたの御出世を憎んで・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・たとえばスターンバーグの「青い天使」の台本と、いよいよできあがった作品とを比べてみても、いかに多くのものが切り捨てられたかがわかる。チャプリンがその「街の灯」の一場面を撮るためにいかに多くのフィルムをむだにしているかは、エゴン・エルウィン・・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫