・・・こうしたところには、彼等の天性の美を見ることも出来なければ、造物主が彼等によって示さんとした天賦の叡智、敏感、正直さというようなものも、ついに知られずにしまったのであります。もしこの世の中に、彼等を心から愛する、文学者、芸術家、若くは真理に・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・ だから女性の人生における受持は、その天賦の霊性をもって、人生を柔げ、和ませ、清らかにし、また男子を正義と事業とに励ますことであろう。 がその女性の霊性というものは、やはり宗教心まで達しないと本当の光りを放つことは期待できない。霊性・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・くはあるが、話の中に自分の名が聞えたので、おのずと聞き逸すまいと思って耳を立てて聞くと、「なあ甲助、どうせ養子をするほども無い財産だから、嚊が勧める嚊の甥なんぞの気心も知れねえ奴を入れるよりは、怜悧で天賦の良いあの源三におらが有ったものは不・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・これ、しかしながら、天賦の長者のそれに比し、かならず、第二流なり。」 定理 苦しみ多ければ、それだけ、報いられるところ少し。 わが終生の祈願 天にもとどろきわたるほどの、明朗きわまりなき出世美・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・私の考えでは婦人というものに天賦のある障害があって、男子と同じ期待の尺度を当てる訳にはいかないと思う。」 キュリー夫人などが居るではないかという抗議に対しては、「そういう立派な除外例はまだ外にもあろうが、それかといって性的に自ずから・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ こういう早わざをしとげるためには、もとより天賦の性能もあろうが、主として平素の習練を積むことが必要で、これは水練でも剣術でも同じことであろうと思われる。 学生の時分に天文観測の実習をやった。望遠鏡の焦点面に平行に張られた五本の蜘蛛・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 学者の中にも科学の応用に興味を有ち、その方面に特別の天賦を具えている人がある。また一方では純理的の興味から原理や事実の探究にのみ耽る人もある。中には両方面を併せて豊富に有っている多能な人もないではない。 ボーアのごときはむしろこの・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ウィリアム・ジェームスの心理学の中に「音楽の享楽にふける事でさえも、その人が自分で演奏者であるか、あるいはその音楽を純理知的に受け入れるほどに音楽的の天賦を有するのでなければ、その人の人格をゆるめ弱めるという結果を生ずるだろう。……この弊を・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・その心掛けは嘉みすべしといえども、人々に天賦の長短もあり、家産・家族の有様もあり、幾千万の人物が決して政治家たるべきにも非ず、また大学者たるべきにも非ず。世界古今の歴史を見ても、その事実を証すべきなれば、政治も学問も、その専業に非ざるより以・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 然ばすなわち我が輩の所業、その形は世情と相反するに似たりといえども、その実はともに天道の法則にしたがいて天賦の才力を用ゆるの外ならざれば、此彼の間、毫も相戻ることなし。前日の事、すでにすでにかくの如し、後日の事、またまさにかくの如くな・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
出典:青空文庫