・・・が、その蓆敷の会場には、もう一時の定刻前に、大勢の兵卒が集っていた。この薄汚いカアキイ服に、銃剣を下げた兵卒の群は、ほとんど看客と呼ぶのさえも、皮肉な感じを起させるほど、みじめな看客に違いなかった。が、それだけまた彼等の顔に、晴れ晴れした微・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・と平気な顔をして、明け方トロトロと眠ると直ぐ眼を覚まして、定刻に出勤して少しも寝不足な容子を見せなかったそうだ。 鴎外は甘藷と筍が好物だったそうだ。肉食家というよりは菜食党だった。「野菜料理は日本が世界一である。欧羅巴の野菜料理ての・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・もしも、これが、どこかへ演奏会を聴きに行くのだと、来客は断れるし、仕事は繰合せて、そうして定刻前には何度も時計を見るであろう。しかしこれがラジオであるために、こういうことになるのである。つまりあまりに事柄が軽便すぎて事柄の重大さがなくなるの・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・もっとも先生は毎朝遅刻する人でけっして定刻に二階から天下った事はない。「いや御早う」。妻君の妹が Good morning と答えた。吾輩も英語で Good morning といった。田中君はムシャムシャやっている。吾輩は Excuse m・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・改札係の板の上には、時間表があり、定刻と、おくれて到着した各列車の時刻とが対比して書き込まれている。けれども、駅員たちは、柵の外に困却して佇んでいるわたしたち同様、その列車がそこに出現する迄は、どこで、どんな理由で、何分おくれているのかとい・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
出典:青空文庫