・・・ ロオル・ベルニィ夫人の父というのは、ルイ十六世の宮廷に出入してマリイ・アントワネットの音楽教師を勤めたヒンネルというドイツ人であり、母は、ルイズと云い、マリイ・アントワネットの侍女の一人であった。父の死後母は熱心な王党員である司令副官・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・紫式部というのは、女官としての宮廷の名です。女流文学の隆盛期と云われた王朝時代、一般の婦人の社会的な地位は、不安で低いものでした。その中から、こういう小説を書いた。そして紫式部が書いた小説にはなかなか立派な描写があるし、同時に彼女の生きた時・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・しかし、どんな階級的作家でも十一世紀の宮廷婦人小説家に、わが身を模して満足しているような錯誤した歴史感はもっていまいと思います。事実は、都の教育委員会への立候補を求めて故服部麦生氏などが来訪されたときの話がゆがめられ誇張されたものです。・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・その頃は宮廷の風流はほとんど様式として完成されていた時代で、艶なること、あわれなることとして審美的に評価されることのありようも大方はきまった内容がつけられていた。清少納言は彼女の感覚の発溂さから多くのところでそういう美感の常識を破って、いか・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・ 藤原氏は、宮廷内のあらゆる隅々まで一族の権力を伸張させるために、抑々藤原鎌足の時代から、自分の娘たちを天皇の母親としようと努力して来た。皇后にするか、さもなければ中宮として、血をとおして一家の権力を扶植して来た。その必要から、自分の娘・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 麻のようなブロンドな頭を振り立って、どうかしたら羅馬法皇の宮廷へでも生捕られて行きそうな高音でハルロオと呼ぶのである。 呼んでしまってじいっとして待っている。 暫くすると、大きい鈍いコントルバスのような声でハルロオと答える。・・・ 森鴎外 「木精」
・・・したがってそこには、インドのマガダ国王の宮廷に起こった出来事が物語られている。しかもそこに描かれている世界は、衣裳、風俗から役人の名に至るまで、全然『源氏物語』ふうであって、インドを思わせるものは何もないのである。 女主人公は観音の熱心・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫