・・・六十八歳で歿したゴーリキイが晩年においては、最も概念的であるべき論説においてさえ、ますます具体性と輝やかしい感性とをもった文章を書き、世界の文化に尽したという全く対蹠的な一事実を、心理学者は何と分析するであろうか。私はそのような心理学者の出・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・として観念的になってゆく存在が、一つの転機をもって、孤独なもの同士のクラブをつくって人間らしさをとりもどしてゆこうとする。村田という病む人物と妻美津子との切ない関係は「縫い音」と対蹠する。村田の生きようとしてすさまじくなった心理も描かれてい・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・を導いてゆく大衆に対する理解と、その社会を構成している多数の人々がだんだんましな生活をやってゆける方向に導かれなければ全体として社会の発展や幸福はのぞみ難いものであるとして大衆を見る観かたとでは、全く対蹠的な性質をもっている。漫然と、政府に・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・しかも日本には日本文学の伝統として、近代文学の確立と同時に文学者は一般官吏、実業家、軍人等の社会活動と全く切り離された別個の道或は並行の道或は対蹠をなす道を歩かざるを得ない事情に置かれて来たという事情がある。 周知の如く近代国家としての・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・理論が本質的に異ったものであることは、フェルナンデスが作家の生活的思想的孤独についてバルビュスなどとは対蹠的な評価を抱いている点について観るだけで、既に十分理解出来る。フェルナンデスのヒューマニズムも、知識人とその知性というものを社会生活の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・に描かれているものとは全く対蹠的な社会的事情――感化院の教師と少年らの関係の内容の緊密さ、愛情、教化の方法すべてを貫いて温く流れている社会人としての共同感情が、単純にそれゆえ一層感動的に描かれているのである。 主人公となっている労働者の・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・『現代文学論』を読むと、著者の気質は、ひとが馬鹿に見えるというような或る意味でののほほんとは、全然対蹠的だということがわかる。寧ろ、「私の批評家的生い立ち」の前半に語られているように、「評論を書いていると、論理の容赦なき発展が、逆に私自・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・を完成し、国際ペンクラブ東京招致に成功したりしているのは、その実際の生き方において透谷とは対蹠的な方法を選んだ計画性のためであることも、また、私どもにつたえられている日本文学の財産の性質を吟味する上に意味ふかいことである。 今日のヒュー・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・を書いたりしていた津田真道やその頃大いに活動していた中江兆民などとは、人生の見かたの方向に於ては対蹠的な立場に立つようになったのであった。明治二十年前後の一つのリアクシォンの時代は明治初年の啓蒙家たちの思想の進路に極めて微妙に作用しているの・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・が『文芸戦線』の文学的傾向とは全く対蹠的なキュービズムやダダイズム、構成派の影響を強く受けて、それを独自なよりどころとしようとしたことも充分うなずける。 当時「新感覚派」はプロレタリア文学に不満を持つ広い範囲の知識人、文学愛好者の支持を・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫