・・・ その意味では、その目撃者はかなり重要な人物だと、云ってもよいから、まずその姓名を明らかにして置こう。 小沢十吉……二十九歳。 その夜、小沢は土砂降りの雨にびっしょり濡れながら、外語学校の前の焼跡の道を東へ真直ぐ、細工谷町の方へ・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・谷川の水、流れとともに大海に注がないで、横にそれて別に一小沢を造り、ここに淀み、ここに腐り、炎天にはその泥沸き、寒天にはその水氷り、そしてついには涸れゆくをまつがごときである。しかしかれと対座してその眼を見、その言葉をきくと、この例でもなお・・・ 国木田独歩 「まぼろし」
・・・物理教室の窓枠の一つに飛火が付いて燃えかけたのを秋山、小沢両理学士が消していた。バケツ一つだけで弥生町門外の井戸まで汲みに行ってはぶっかけているのであった。これも捨てておけば建物全体が焼けてしまったであろう。十一時頃帰る途中の電車通りは露宿・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
『新日本文学』に「町工場」という小説を発表した小沢清という若いひとが、「軍服」という小説をかいた。小沢清は勤労者の生活をしながら小説をかくようになった青年である。 まだ試作というべき作品であるが、「町工場」は、へんに凄ん・・・ 宮本百合子 「小説と現実」
・・・ またこの四号には、小沢清という人の「町工場」という小説がのりました。徳永さんの推薦で、推薦者は、この作品のよい点とともにおさなさをいっていられます。なるほど、おさない、といえるところはあるかもしれないけれども、それは現実を見る眼、現実・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・その上神崎検事からは、自由法曹団を相手にまわしていくらでも闘ってくれる弁護人がいるといわれ、前に頼んだ今野、小沢両弁護人さんたちに会わせる顔がなくて解任届を出した。今でも今野、小沢両弁護人に頼みたい。」と。 これから数十回継続されてゆく・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・『新日本文学』は小沢清「町工場」つづいて熱田五郎「さむい窓」、林米子「矢車草」など、職場に働いている労働者作家の作品を発表しはじめるとともに、徳永直「妻よねむれ」、宮本百合子「播州平野」などをのせはじめた。 永井荷風によって出発したジャ・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
出典:青空文庫