・・・ 二 居酒屋 ゾラの「居酒屋」を映画化したものだそうである。原著を読んでいないからそれとの交渉はわからない。しかし普通のアメリカの小説映画とは著しくちがった特徴のあることだけはよくわかる。話の筋も場面も実に尋常普通の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ フランス映画「居酒屋」でも淪落の女が親切な男に救われて一│皿の粥をすすって眠った後にはじめて長い間かれていた涙を流す場面がある。「勧進帳」で弁慶が泣くのでも絶体絶命の危機を脱したあとである。 こんな実例から見ると、こうした種類の涙・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 汽船の外でも西洋小間物屋の店先や、居酒屋の繩のれんの奥から聞こえて来るのが通りすがりに聞かない事はなかった。そういうのは大概「金の逃げ出す音」の種類に属するものであった。しかしそれはこっちで逃げさえすれば追っかけて来ないから始末がよか・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・とした赤行燈を出し、葭簀で囲いをした居酒屋から、※を焼く匂いがしている。溝際には塀とも目かくしともつかぬ板と葭簀とが立ててあって、青木や柾木のような植木の鉢が数知れず置並べてある。 ここまでは、一人も人に逢わなかったが、板塀の彼方に奉納・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・日本国中の立場・居酒屋に、めし、にしめと障子に記したるはあれども、メシ、ニシメと記したるを見ず。今このめしの字は俗なるゆえメシと改むべしなど国中に諭告するも、決して人力の及ぶべき所に非ず。 さればここに小学の生徒ありて、入学の後一、二カ・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・かれは途ゆく人を呼び止めて話した、居酒屋へ行っては酒をのむ人にまで話した。次の日曜日、人々が会堂から出かける所を見ては話した。かれはこの一件を話すがために知らぬ人を呼び止めたほどであった。今はかれも胸をなでた。しかるにまだ何ゆえともわかりか・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
出典:青空文庫