・・・ 同志諸君の貴重なる生命が、腐敗した罐詰の内部に、死を待つために故意に幽閉されてあるという事実に対して、山田常夫君と、波田きし子女史とは所長に只今交渉中である。また一方吾人は、社会的にも世論を喚起する積りである。同志諸君、諸君も内部において・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・このときは、山田清三郎が、右翼的日和見主義の自己批判を発表した。当時「ナップ」の書記長は山田清三郎であった。「前進のために」をよむと、誤りをみとめつつ、なお林房雄などの卑劣さに対する本質的ないきどおりをしずめかねて、うたれつつたたかれつつ、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ 日本の映画女優で、頭のいい人といえば飯田蝶子の名を誰しも思い出すようだが、森律子と似ていて、そのかしこさがやや日常性により多く立っているように考えられる。山田五十鈴、入江たか子、それぞれ自分の容姿をある持ち味で活かす頭はもっているとい・・・ 宮本百合子 「映画女優の知性」
・・・などの中に、いくつか印象のつよい作がありました。山田清三郎が獄中からよこす歌には何とも云えぬ素直さ、鍛えられた土台の上に安々としている或るユーモアの境地があり、作品に独特なおもむきを与えているではありませんか。 ところで、この『集団行進・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・六畳の方に山田のおばあちゃん[自注10]のくれた机をおいて、四畳半へテーブルと、あなたのつかっていらした本棚をおきおさまっている次第です。二階の景色はよくてテーブルの右手の小窓をあけると、小学校の庭と建物越しに下落合の高台が見え、六畳の方の・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・林町の父は、この頃ちょくちょく旅行に出かけ用事なのですが、正月には御木本真珠を見に山田へ行った話、まだ申しませんでしたね。御木本さんは元ウドンやだったそうで、その頃使った臼が故郷の山にしめを張って飾ってある由。そして先頃赤しおで真珠をやられ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・木村の右隣の山田と云う男が云った。「むしむしすると思ったら、とうとう夕立が来ましたな。」「そうですね」と云って、晴々とした不断の顔を右へ向けた。 山田はその顔を見て、急に思い附いたらしい様子で、小声になって云った。「君はぐん・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・御供には長岡河内景則、加来作左衛門家次、山田三右衛門、佐方源左衛門秀信、吉田兼庵相立ち候。二十四日には一同京都に着し、紫野大徳寺中高桐院に御納骨いたし候。御生前において同寺清巌和尚に御約束有之候趣に候。 さて今年御用相片づき候えば、御当・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・ 木村の左に据わっている、山田というおとなしい男が詞を挟んだ。この男はいつも毒にも薬にもならない事を言うが、思の外正直で情を偽らないらしいので、木村がいつか誰やらに、山田と話をするのは、胡坐を掻いて茶漬を食っているようで好いと云ったこと・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・須坂にて昼餉食べて、乗りきたりし車を山田まで継がせんとせしに、辞みていう、これよりは路嶮しく、牛馬ならでは通いがたし。偶牛挽きて山田へ帰る翁ありて、牛の背借さんという。これに騎りて須坂を出ず。足指漸く仰ぎて、遂につづらおりなる山道に入りぬ。・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫