・・・……羽織は、まだしも、世の中一般に、頭に被るものと極った麦藁の、安値なのではあるが夏帽子を、居かわり立直る客が蹴散らし、踏挫ぎそうにする…… また幕間で、人の起居は忙しくなるし、あいにく通筋の板敷に席を取ったのだから堪らない。膝の上にの・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ちょうど幕間で、階下は七分通り詰まっていた。 先刻の婦が煙草盆を持って来た。火が埋んであって、暑いのに気が利かなかった。立ち去らずにぐずぐずしている。何と言ったらいいか、この手の婦特有な狡猾い顔付で、眼をきょろきょろさせている。眼顔で火・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・んと、なかなか賑やかなもので、突如として教会の鐘のごときものが鳴り出したり、琴の音が響いて来たり、また間断無く外国古典名曲のレコード、どうにもいろいろと工夫に富み、聴き手を飽かせまいという親切心から、幕間というものが一刻も無く、うっかり聞い・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・ 第一国立オペラ舞踊劇場でも、オペラの長い幕間には、本を出してよんでいるソヴェト市民男女をよく見かける。 バレーの「フットボーリスト」では、その扱いの失敗の典型を見せられたが、ソヴェトのオペラで感服した一つのことはオペラ舞台では、演・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ その少年は、私が舞台を見ているオペラグラスが珍しいのであった。幕間に、それをかりて、ああ近い近い、とよろこび叫びながら平土間の聴衆を見下したり、わざわざ平土間へそれを持って下りて、バルコンの方を見上げたりしている。 いろんないきさ・・・ 宮本百合子 「時計」
・・・ 舞台に上る三時間は彼女の生活の幕間なのである。彼女は生活の全力を集めて舞台に尽くしているのではない。意味のあるのは舞台外の生活だ。……美しい手で確乎と椅子の腕を握り、じっとして思索に耽っている時のまじめな眠りを催すような静寂。体は横の・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫