・・・ ベルを鳴らして疾走して来る電車はどれも満員だ。引け時だからたまらない。群衆をかきわけて飛び出した書類入鞄を抱え瘠せた赤髭の男が、雨外套の裾をひるがえして電車の踏段に片足かけ、必死になって ――入り給え! 入り給え!とやっている・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・朝子供をつれて出勤し、退け時まで、女医と保姆の手もとにある子について何の心配がいろう。 子を産んでその男から捨てられるという悲劇もソヴェトでは女をセイヌ河や隅田川へは行かせない。国民裁判所へ彼女を行かせるだけだ。民法は、事情によって父親・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・今日の退け時ほど工場の出入口が陽気だったことはない。 工場委員会は、各職場へ、特別婦人デーのための芝居割引券をどっさり配った。ニーナはそれを貰わなかった、というのは、今夜食糧労働者組合クラブに、婦人デーの催しものがある。ナターシャをさそ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
出典:青空文庫