・・・この科学博物館の映画からも原理を形象的に啓蒙してゆく方法がいかに多様で自由で人間的で具体的であり得るかということを考えさせられた。 文学は今日、あながち源氏物語をかりないでも、世界文学の間に一つの明瞭な日本としての独自性をもって存在して・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・ 愛する者よ、我が愛するものよ、 斯う呼ぶ時、自分は彼という一つの明かな形象を透して、限りない尊び畏るべき人々と、いたわり憐むべき人々との心へ、自分の魂が拡がるのを感じる。 彼への深い信は、魂の愛は、万人へのよりよき心の共鳴を教・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・芸術的完成、生き生きとした芸術的形象というものは、その作品が芸術的感銘を与えるために必須な条件と見られてはいるが、翌年この理論の発展として云われた新しいリアリズムの提議では、新しいリアリズムの本質を十九世紀以降の個人主義に立つリアリズムと異・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・を作品全体の効果という点から見ると、細部を形象化するための努力をもって描写が行われているが、読者の心を打つ力では、一見より未熟な手法で書かれていた「新聞配達夫」がまさっていたと思われる。「牛車」によって深く感銘を受けた点は他にあった。これら・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・われわれが生き、たたかい、そしてそれを芸術のうちに再現しようとしているこの社会的現実のうちに、彼らをしてそのような作品をかかしめている要因があるということ、それを文学の面においてはブルジョア文学の作品形象のうちにとらえ、理解すること、これが・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・深見進介の眼の虹彩のせばまるところに光りがあり、情景があり、その虹彩の拡がるところに闇がある、そんなふうに執拗に深見の体にくっついてはなれず、その感情を通じてだけ形象の世界を実在させている。その意味で作者の手法は、そういう主人公の生活を見つ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・らなりの文学作品について、自分の主観から好きとかきらいとかを表明するところにあるのではなくて、ある作品を生んだ作家が意識しているといないとにかかわらず必ず代表している社会的な要求を、その作品の中でどう形象化しているかという具体的な関係を、創・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・もっと強烈ななまなましい対立する力の形象化をそこに感じる。だからステッキに就いて一つの小品を書いたとしても、私はそのような内容でそれを書くことは、私の気持ちの上から出来なくなって来ているのである。 この感情の再組織のことはプロレタリヤ文・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
・・・ 同志貴司山治が『時事』に書いた文芸時評中にも、この作品を形象化の欠如という点からだけ批判し、「蟹工船」以後の発展、特に去年四月以後同志小林が行った本質的飛躍については触れていない。 同志小林が最近十ヵ月間の実践によって理論家と・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・しかし、芸術家としての彼が遂に一大勇猛心をふるいおこして、小さい囲炉裏のような私一個の安心立命は思い捨て、この人生が彼にとって根本に寂しと観じられているならそれなり刻々の我が全生活をかけて、感覚と形象の世界へ突入してゆくことで天地の生気の諸・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫