・・・人の言葉が、犬と人との感情交流にどれだけ役立つものか、それが第一の難問である。言葉が役に立たぬとすれば、お互いの素振り、表情を読み取るよりほかにない。しっぽの動きなどは、重大である。けれども、この、しっぽの動きも、注意して見ているとなかなか・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・われわれの筋肉の緊張感覚がそれに役立つ。 これらの原始的なしかし驚嘆すべき計量単位の巧妙な系統によって、われわれの祖先は遠い昔から立派な力学的世界像を構成していた。近ごろになってわれわれはそれを少しばかり整理しみがき上げて、そうしていか・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・方則に従っていればこそ、それと同じような現象が過去にも起こりまた未来にも起こりうるのであり、かくしてその作品は記録であると同時にまた予言として役立つものとなるであろう。「狂人の文学」はわれわれの文学では有り得ないであろう。それは狂人の思・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ これに連関してまた、五位鷺や雁などが飛びながらおりおり鳴くのも、単に友を呼びかわしまた互いに警告し合うばかりでなくあるいはその反響によって地上の高さを瀬踏みするためにいくぶんか役立つのではないかと思われるし、またとんびが滑翔しながら例・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
・・・そうして得た結果がいったい何に役立つか弟子自身には見当のつかない場合に、先生がそれを使ってともかくも一つのまとまった帰納とそれからの演繹をすることに成功したとすれば、この場合は明白に先生が陶工であり弟子は陶土の供給者でなければならない。それ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・生まれた時からだれにも教わらずに役立つ最も鋭敏な優秀な器械を備えているのである。左右の羽根の刺激の不平均のために、無意識に自動的に羽根の動きの不平均が起こって、結局左右が平均するまでからだを回転させ、そうして刺激を増大するような方向に進行さ・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・しかしとにかくそういう種類の考えも、少なくも一つのヒントとしては役立つであろうと思うので、不謹慎のそしりを覚悟してついでに付記する次第である。 週期的ではないが、リーゼガング現象といくぶん類似の点のあるのは、モチの木の葉の面に線香か炭火・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・しかし、そうかと言ってその結果がいくぶんか科学知識普及に役立つことになってもそれはさしつかえはないであろうと思っている。 ついでながら、断片的な通俗科学的読み物は排斥すべきものだというような事を新聞紙上で論じた人が近ごろあったようである・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・自分の文章の校正刷りを見る時に顕著な誤植を平気で読み過ごすと同じような誤謬が、不完全なレコードを完全に聞かせるに役立つ場合も可能である。 畢竟蓄音機をきらいなものとするか、おもしろいものとするかは聞く人の心の置き方でずいぶん広い範囲内で・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・私のいわゆる全機的世界の諸断面の具象性を決定するに必要な座標としての時の指定と同時にまた空間の標示として役立つものがこのいわゆる季題であると思われる。もちろん短歌の中には無季題のものも決して少なくはないのであるが、一首一首として見ないで、一・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
出典:青空文庫