・・・と謂われて返さむ言も無けれど、老媼は甚だしき迷信者なれば乞食僧の恐喝を真とするにぞ、生命に関わる大事と思いて、「彼奴は神通広大なる魔法使にて候えば、何を仕出ださむも料り難し。さりとて鼻に従いたまえと私申上げはなさねども、よき御分別もおわさぬ・・・ 泉鏡花 「妖僧記」
・・・「ゆすりだ」と夫は、威たけ高に言うのですが、その声は震えていました。「恐喝だ。帰れ! 文句があるなら、あした聞く」「たいへんな事を言いやがるなあ、先生、すっかりもう一人前の悪党だ。それではもう警察へお願いするより手がねえぜ」 その言・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・僕は、君がお金持になったら、あの手紙を君のところへ持って行って恐喝しようと思っていた。ひどい手紙だぜ。ウソばっかり書いていた。」「知っていますよ。そのウソが、どの程度に巧妙なウソか、それを調べてみたくなったのです。ちょっと見せて下さい。・・・ 太宰治 「誰」
・・・これは侮辱、名誉毀損、恐喝、恐迫等の犯罪を構成する。適当な機会に断固たる処置をとりたい。数十名の弁護人ならびに三分の二の傍聴人により法廷を制圧している等の諸点をあげて示威した。 裁判長「法廷を制圧しているとはどんな意味か。」 川口検・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・嘘とは恐喝の声である。貧、富、男、女、四騎手の雑兵となって渦巻く人類からその毒牙を奪う叱咤である。愛である。かかる愛の爆発力は同じき理想の旗のもとに、最早や現実の実相を突破し蹂躙するであろう。最早懐疑と凝視と涕涙と懐古とは赦されぬであろう。・・・ 横光利一 「黙示のページ」
出典:青空文庫