・・・ これから見ても、和本は、出版の部数は少なかったけれど、これを求めた人は愛玩し、また、古本となって、露店へ出ても、買った人は大事にして、本箱に樟脳をいれたりして、永久に保存したでありましょう。この場合、他の骨董品と同じく、数が少なければ・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・観賞植物として現代の都人にでも愛玩されてよさそうな気のするものであるが、子供のとき宅の畑で見たきりでその後どこでもこの花にめぐり合ったという記憶がない。考えてみると今どき棉を植えてみたところで到底商売にも何にもならないせいかもしれない。もっ・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・実況から市井裏店の風景、質屋の出入り、牢屋の生活といったようなものが窺われ、美食家や異食家がどんなものを嗜んだかが分かり、瑣末なようなことでは、例えば、万年暦、石筆などの存在が知られ、江戸で蝿取蜘蛛を愛玩した事実が窺われ、北国の積雪の深さが・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・れているのだろうが、夫にしても、一つ一銭のペンや一本三銭の水筆に比べると何百倍という高価に当るのだから、それが日に百本も売れる以上は、我々の購買力が此の便利ではあるが贅沢品と認めなければならないものを愛玩するに適当な位進んで来たのか、又は座・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・夫の常に愛玩する物は犬馬器具の微に至るまでも之を大切にするは妻たる者の情ならずや。況んや譬えんものもなき夫を産みたる至尊至親の老父母に於てをや。其保養を厚うし其感情を和らげ、仮初にも不愉快の年を発さしむることなきよう心を用う可し。殊に老人は・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・文学が特殊な人々の愛玩物ではなくて、私たちすべての生活人の社会生活のいきさつと、心持とそこからの発展を意味するものであればある程、社会人としての文学上の素人の意見は文学に大きい評価の価値を占めてくるものである。 おなじ文化でも音楽のこと・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
出典:青空文庫