・・・其等の事実も弁えずして、此女に子なしと断定するは、畢竟無学の臆測と言う可きのみ。子なきが故に離縁と言えば、家に壻養子して配偶の娘が子を産まぬとき、子なき男は去る可しとて養子を追出さねばならぬ訳けなり。左れば此一節は女大学記者も余程勘弁して末・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・なおはなはだしきは、医は意なりと公言して、医術は憶測に出ずるものかと誤まり認め、無稽の漢薬を服して自得する者あり。その愚の極度にいたりては、売薬をなめて万病を医せんと欲する者あり。上等社会にしてその知識の卑しきこと、実に驚くに堪えたり。・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・〔『日本』明治三十二年三月二十四日〕 社会の一貧民としての曙覧、日本国民の一人としての曙覧は、臆測ながらにほぼこれを尽せり。ここより歌人としての曙覧につきて少しく評するところあらんとす。 曙覧の歌は比較的に何集の歌に最も似た・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・荒々しい条件におかれた自身の荒々しい所行の物語といっしょに、恐怖をもって臆測されている北鮮の治安が実際にはよくて、保安隊の若もの、土地の人々の親切、ソ同盟の兵士の素朴な人間ぽさなども、それがそうであったように語られている。北鮮の新幕から三十・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・けれども、わたしへのそのふれかたの中には、わたしが迷惑し、聴衆や読者の判断があやまられるばかりでなく、もっと複雑な誤解や事実とちがう憶測を刺戟する要素がふくまれている。それらの点をはっきりさせたいと思う。 平野氏の話のきっかけは、『新日・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・ 彼は只帰り度く成って帰ったと云っては居たけれ共今思えば――それは非常な憶測かも知れないが――只単純にそれ丈の理由であったろうとは思われない。 何故なら彼は暗示を受け得る人であったと云う事を父は屡々話す事が有るからである。 勿論・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・不必要なきがねや、くだらない体裁、いやしい常識、そういうものに毒されて掛引と臆測と打算なしの恋愛も結婚も本当に少いように見える。さもなければ住宅問題からはじまるインフレーションの諸悪があらゆる若々しい愛を結実させない。こういう社会の眺めは、・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ 自分は臆測に成ることを恐れます。が、「我等の道の為」という、敬虔なフランクネスは御解り下さいますでしょう。「助教授Bの幸福」の中には、貴女が一個の芸術家として自己を御認めになりながら、一方では、人間的興味、感動による観察、表現より・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
・・・それはただ自分の智慧が臆測の光を投げ込むに過ぎない底知れぬ深淵である。しかしその深淵のすみからすみまで行きわたっているある大いなる力と智慧との存在する事を、そうしてその力と智慧とが敏感な心に一瞬の光を投げることを否むわけに行かない。我々は不・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫