・・・豊かに律を感じて拡がろうとする魂が、彼方此方で遮られて、哀れな戸惑いをする。ああ、野原、野原。私の慾しいものは、宝石よりも館よりも、唯一ふき、そよそよと新鮮に、瑞々しく、曠野の果から吹いて来る朝の軽風である。 図らぬ時に、私の田園への郷・・・ 宮本百合子 「餌」
・・・それに、この訳にはところどころに訳者插入の研究が自由にさしはさまれていてそのような研究に特別の見識をもたない読者は何か戸惑いを感じるところもなくはない。 このウエルズの文化史大系が、よりまとまりよく整えられて「世界文化史概観」となって発・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・ だが、私は妻としての感情から、妻としてのこのエハガキをよんだ時母の心に何か戸惑いを生じたであろう瞬間の感情を察して微笑する。何故なら、父は大した考えなく一般的に、翼がなくて何処までも飛べる発明が出来るまで生きたいという心持を云って・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ ト思うと、日光の明るみに戸惑いした梟を捕まえて、倒さまに羽根でぶらさげながら、陽気な若者がどこへか馳けて行く。 今まで、森はあんなに静かな穏やかなところと、誰の頭にもしみ込んでいるので、これ等の騒ぎは、この上なくいやな、粗雑な感じ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・船の機関の何処かが破裂して甲板が水蒸気で濛々となったりした時、実際の危険はなくても、その予感でもう怯え、戸惑い、喚き立てる船客等の恐怖心のつよさ。しかも、喧嘩も、恐慌もない時には、低いテントの下に坐り、或は寝そべりながら飲んだり食ったりし、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫