・・・庭遊技などを輸入するものは、国民品性の特色を備えた、在来の此茶の湯の遊技を閑却して居るは如何なる訳であろうか、余りに複雑で余りに理想が高過ぎるにも依るであろうけれど、今日上流社会の最も通弊とする所は、才智の欠乏にあらず学問の欠乏にあらず、人・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・、意気で人と交わるというような事はないようだね、身勝手な了簡より外ない奴は大き面をしていても、真に自分を慕って敬してくれる人を持てるものは恐らく少なかろう、自分の都合許り考えてる人間は、学問があっても才智があっても財産があっても、あんまり尊・・・ 伊藤左千夫 「姪子」
・・・謂わば、眼から鼻に抜けるほどの才智を持った男であります。普通、好人物の如く醜く動転、とり乱すようなことは致しません。やるなら、やれ、と糞度胸を据え、また白樺の蔭にひたと身を隠して、事のなりゆきを凝視しました。 やるならやれ。私の知った事・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・そしてまた、更級日記をみてもわかるとおり権門に生れず、めいめいの才智でよい結婚も見出してゆかなければならなかった中流女性にとって、宮仕えは一つの生きる道でもあった。源氏物語の「雨夜のしなさだめ」は、婦人の一生をみる点で紫式部がリアリストであ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・俊子の生涯の活動ぶり、情熱の中心は、自分というものが身にもっている容色と才智との全部を男と平等なあるいは男を瞠若たらしめる女として表現してゆこうとする意欲に熱烈で、その面には徹底的であったらしいけれども、当時のおくれた無智におかれている同性・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・色とりどりの可憐さ、鮮やかな性格と情熱と才智とで、男の政治、経済の波瀾、権謀の中に交錯してゆく女の姿が描かれている。 近代国家イギリスを盛立てたエリザベス女皇の時代の社会の文学として、シェークスピアが、古代ギリシャ文学などに女が運命の神・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・その必要から、自分の娘たちの身辺を飾り宮廷社会の陰険な競争に対してよく備え暗黙の外交的影響と文化の力で、娘の勢力を確保するために才智の優れた、性格にも特色のある婦人達を官女として集め、宮中の人気を集注し、社交的なあらゆる場面で勝利を占めよう・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・あの写真があなたをせびるようにして、あなたから出来るだけの美しさや、御様子のよさや、才智を絞り出してくれたのでございますね。あの頃わたくし全くあなたに惚れていましたの。ですからあなたの長所が平生の倍以上になったのがどんなにか嬉しゅうございま・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・色が白くふっくらとした落ちつきをもっていて、才智が大きな眼もとに溢れていた。またこの大伯母はいつも黙って人の話を聞いているだけで、何か一言いうと、それで忽ち親戚間のごたごたが解決した。ときどき実家のあるこの村へ来ても、どこの家へも行かずに私・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫