・・・人生を全体として把握し、生活の原理と法則とを求めるものは倫理学に行くべきだ。これは文芸に求めるのが筋ちがいだからだ。もとより倫理学は学としての約束上概念を媒介としなければならぬ。文芸の如く具象的であることはできない。しかしすぐれた倫理学を熟・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ここには同じ宗教的日本主義者として今日彼に共鳴するところの多い私が、私の目をもって見た日蓮の本質的性格と、特殊的相貌の把握とを、今の日本に生きつつある若き世代の青年たちに、活ける示唆と、役立つべき解釈とによって伝えたいと思うのである。・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・真理を把握するオルガンとしての知性は、直観となり、啓示となるのでなければ全くはない。今日この国の知的指導者たちの主張するのは主として合理的知性である。「合理的なるもの」を認識するための知性である。しかし生の真理の重要な部分はむしろ非合理的の・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・俗物だけに、謂わば情熱の客観的把握が、はっきりしている。自身その気で精進すれば、あるいは一流作家になれるかも知れない。この家の、足のわるい十七の女中に、死ぬほど好かれている。次女は、二十一歳。ナルシッサスである。ある新聞社が、ミス・日本を募・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・自分の才能について、明確な客観的把握を得た。自分の知識を粗末にしすぎていたということにも気づいた。こんな男を、いつまでも、ごろごろさせて置いては、もったいない、と冗談でなく、思いはじめた。生れて、はじめて、自愛という言葉の真意を知った。エゴ・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・唯物論的弁証法に拠らざれば、どのような些々たる現象をも、把握できない。十年来の信条であった。肉体化さえ、されて居る。十年後もまた、変ることなし。けれども私は、労働者と農民とが私たちに向けて示す憎悪と反撥とを、いささかも和げてもらいたくないの・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・私は、人の世の諸現象の把握については、ヘエゲル先生を支持する。 ほんとうは、マルクス、エンゲルス両先生を、と言いたいところでもあろうが、いやいや、レニン先生を、と言いたいところでもあろうが、この作者、元来、言行一致ということに奇妙なほど・・・ 太宰治 「創作余談」
・・・俗物だけに、謂わば情熱の客観的把握が、はっきりしている。自身その気で精進すれば、あるいは二流の作家くらいには、なれるかも知れない。この家の、足のわるい十七の女中に、死ぬほど好かれている。 次女は、二十一歳。ナルシッサスである。ある新聞社・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・これらは発声映画と無声映画との特長をそれぞれ充分に把握した上で、巧みに臨機にそれを調合配剤しているものと判断されることはたしかである。しかしこのような見え透いた細工だけであれほどの長い時間観客を退屈させないでぐいぐい引きずり回して行くだけの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・しかしすべての人間は、皆無意識に物理的力学的に世界像を把握する事を知っている。すなわちまず三次元の空間の幾何学に一次元の時間を加えた運動学的の世界を構成し、さらにこれに質量あるいは力の観念を付加した力学的の世界像を構成し、そうして日常の生活・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
出典:青空文庫