・・・ 後に待っている人のことなどはまるで考えないで、自分さえ切符を買ってしまえばそれでいいという紳士淑女達のことであるから、切符売子と色々押し問答をした上に、必ず大きな札を出しておつりを勘定させる、その上に押し合いへし合いお互いに運動を妨害・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・それから二人はしばらく押問答をしていたが間もなく一人ともつかず二人ともつかず家のなかにはいって来てわずかに着物のうごく音などした。そしていっぱいに気兼ねや恥で緊張した老人が悲しくこくりと息を呑む音がまたした。・・・ 宮沢賢治 「泉ある家」
・・・ 大衆化のことを、彼等らしい歪めかたで逆宣伝しているのである。 押問答の果、中川は実に毒を含んでニヤニヤしつつ云うのであった。「まア静かに考えておき給え。君がここでそうやって一人でがんばって見たところで、外の同志達はどうせ君がが・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・そしてブルジョア批評家の或るものも同じように云っているところなのである。押し問答の間に、半面が攣れたような四角い顔をした清水は、「ヤ、すみませんが……ヤ、これは恐縮です」など主任に茶をついで貰っている。 号外の方は小一時間で終っ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・そう云わずに行けと押問答をして居ると彼方側からも一人駒込に行くからのせろと云う。それでは二人で行きましょうとやっと家にかえった。 かえって見ると、おばあさん二人は竹やぶににげ、英男が土蔵にものを運び込んで、目ぬりまでし、曲って大扉のしま・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・やはり何度でも事務所でと答え、後年は、そういう習慣が世間一般にも少なくなったので、早朝のお客様との押し問答が稀れになりました。 夕刻事務所から早く帰った日には、皆でテーブルを囲んで夕飯をたべ、後は談笑したり、音楽をきいたり、興に乗じると・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・ 或日帰って見ると、島村と押問答をしているものがある。相手は百姓らしい風体の男である。見れば鶏の生きたのを一羽持っている。その男が、石田を見ると、にこにこして傍へ寄って来て、こう云った。「少佐殿。お見忘になりましたか知れませんが、戦・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・私はいっしょに行きたいと言っていろいろ押し問答しながら歩いた。突然Aはいっしょに行こうと言い出した。それから十分ほどで先生の所に着いた。するとちょうど十分ほど前に先生が最初に血を吐かれた所であった。 私たちは何かの手伝いでもできれば結構・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫