・・・久保田君と君の主人公とは、撓めんと欲すれば撓むることを得れども、折ることは必しも容易ならざるもの、――たとえば、雪に伏せる竹と趣を一にすと云うを得べし。 この強からざるが故に強き特色は、江戸っ児の全面たらざるにもせよ、江戸っ児の全面に近・・・ 芥川竜之介 「久保田万太郎氏」
・・・ 何しろ、ポムプへ引いてある動力線の電柱が、草見たいに撓む程、風が雪と混って吹いた。 鼻と云わず口と云わず、出鱈目に雪が吹きつけた。 ブルッ、と手で顔を撫でると、全で凍傷の薬でも塗ったように、マシン油がベタベタ顔にくっついた。そ・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・しなしなと微風に撓む帽子飾の陰から房毛をのぞかせて、笑いながら扇を上げる女性の媚態も見られます。 けれども此村は只其丈の単純さではございません。女達が華やかに笑いさざめいて行き交う街道の一重彼方には、まるで忘られたような、祖先のインディ・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 只何かの時にと持って居る叔父の杖は大変益に立って、滑ろうとする足を踏みしめる毎に、躰の重味で細い杖が折れそうにまで撓むのを、どんなにハラハラして私は見て居たかしれない。 息をはずませながら私は叔父の袂を引っぱって一足一足と踏みしめ・・・ 宮本百合子 「追憶」
出典:青空文庫