・・・ ここにおいてか貧困を救助し、文盲を教育する者あり。これを仁人君子と称す。仁人君子は、我が利害を棄てて人のためにし、我に損して他に益すというといえども、その実は決して然らず。その棄るところのものは、形体に属する財物か、または財にひとしき・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・さるを今の作者の無智文盲とて古人の出放題に誤られ、痔持の療治をするように矢鱈無性に勧懲々々というは何事ぞと、近頃二三の学者先生切歯をしてもどかしがられたるは御尤千万とおぼゆ。主人の美術定義を拡充して之を小説に及ぼせばとて同じ事なり。抑々小説・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・中国も、帝政時代のロシヤも、人民の文化水準は全く低くて、文盲率が非常に高くありました。中国では、日本の侵略に抵抗して、「抗戦救国」というスローガンがあらゆるへんぴな村々の壁にはられました。そして村人たちはゲリラを闘い日本軍の惨虐に耐えました・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・――文盲は勤労者の恥だ―― 大体、革命までロシアは世界で有名な文盲率の高い国だった。帝政ロシアの支配者たちは搾取に反抗されるのがこわくて、勤労者には高い税で政府が儲けることのできる火酒と坊主をあてがってばかりいた。農村、・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・やっと文盲撲滅が行われて十一二年目のソヴェトの農民が、やさしい、啓蒙的な小説を欲しがるだろうということは知っているが、農民がシェークスピアでもわかり、またわかったらそれをなかなか独特の味いかたで深く噛みこなし、その理解や批評のしかたが、ソヴ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 人口の大部分が文盲である中国民衆がいきなりソヴェト社会に入ってゆく独特な社会・文化条件の下で趙樹理の作品がもつ意味は、日本の天皇制文化に加えて無良心な商業ジャーナリズムの肉体文学、中間小説の氾濫に毒されている日本の人民の文化的条件の中・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・がある。そこはホテルに働くものの為の休息室、食堂、職業組合のメストコム、党細胞で、一隅には赤布で飾った小図書部「赤い隅」がある。文盲者率の最も高い人民栄養労働者が彼らの文化革命と社会主義建設を達成すべき細胞である。 廊下を通る日本女の空・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・有名な源氏物語は藤原時代の封建貴族文化の精華であるといわれているが、あの作品は同じ藤原時代に文盲ではだしで一度び飢饉が来ると道ばたに倒れて飢え死んだ庶民のいかなる心持ちをも反映してはいないのである。文字そのものさえ、貴族に独占されていた。現・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・ ソヴェト市民は一九一七年以来文盲撲滅を努力的に行って、もとはインド、中国と並んでいた文盲のロシア人民を、啓発してきた。本を読む人口は全人口の尨大な部分をしめている。これはシーモノフなどの文学作品の発行部数が数百万部というのでも想像され・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 革命前、ロシアの民衆の大半が文盲であったころプロレタリアートは彼等の鎖と汗とのほかに、どんな文学をもっていただろう。火酒と教会と悲しい民謡があっただけだ。革命によって解放されたプロレタリアートが、一般に文化水準を高めて来たとき、はじめ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
出典:青空文庫