・・・ 帰って湯に入って、寝たが、綿のように疲れていながら、何か、それでも寝苦くって時々早鐘を撞くような音が聞えて、吃驚して目が覚める、と寝汗でぐっちょり、それも半分は夢心地さ。 明方からこの風さな。」「正寅の刻からでござりました、海・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・俺の胸は早鐘を打った。 飯の車が俺の監房に廻わってきたとき、今度は向うの一番遠い監房――No. 1. あたりで「ロシア革命万歳」を叫んでいるのが聞えた。看守はむずかしい顔をしていた。――誰か口笛で「インターナショナル」を吹いている……。・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・ 顔の筋肉の痙攣につれて無意識にしたたり落ちる涙にあたりはかすんで耳は早鐘の様になり、四辺が真暗になる様な気がして誰に一言も云わずに部屋の隅の布団のつみかさなりに身をなげかけた。 女達は私の左右に立って「どうぞ、一言呼んで差しあげて・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
出典:青空文庫