・・・を宮本が生きて、これから先何年もそこですごさなければならない見当さえつかない未決にまわった記念のために、ちゃんとした小説に書き上げたいと思う熱意があった。そのために一ヵ月余、継続的に仕事をした。ある部分は数度かき直された。そして「乳房」と題・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ 柩を送ってから十三日静かな夜の最中に此の短かいながら私には堪えられないほどの悲しみの生んだ文を書き上げた。 これを私は私のどこかの身にそって居る我が妹の魂に捧げる。 仕立て上げて手も通さずにある赤い着物を見るにつけ桃色の小夜着・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・そして一つの作品を書き上げた時のわたくしには、安心と寂しみと不満とがある。ちょうど、育て上げた息子が嫁をつれて出てゆくのを見送る母親の心のように。 厭い わたくしは、わたくしの書くものを、変な興味をもって読まれ・・・ 宮本百合子 「感情の動き」
・・・その晩は安心してのんびり出来るよう、朝六時までかかって私は到頭バルザックを六十八枚書き上げ、一層心持ちがよかったわけです。バルザックが卑俗であり、悪文であるということを同時代人からひどく云われたし、現代でも其は其として認めざるを得まいが、そ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
書きつづけている「道標」を今年の半ばまでに書き上げ、更にその先にすすみたいと思います。健康を守って、ゆとりをもって、たっぷり仕事をためたいと思います。〔一九四八年一月〕・・・ 宮本百合子 「今年の計画」
・・・り、朝食後新聞も読まずに机にむかうという風で、そして、一つ創作が出来上らないうちに、他のものを書くというような器用なわざはわたしには不可能で、あちこちから三つ四つと一ぺんに頼まれても、一つ一つ順繰りに書き上げてゆくのです。 朝、ペンを執・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・ 陽気な声で千世子はついこの間書き上げた極く短っかいそいで可哀らしいものを京子に読んできかせたり思い浮ぶ歌を歌の様な調子に唄ったりした。 だまって陽気な顔を見て居た京子はしみじみとした低い声で云った。「でも貴方なんか、思う通・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・彼が数ヵ月の間、部屋も出ず、レモン水と堅パンとで暮しながら書き上げた「クロンウェル」の効果は意外であった。 朗読は「少しの反響もなく、聴衆の陰鬱な沈黙と呆然自失のうちに」終り、更にその原稿を見せた理工科学校の一老教授は、親切にバルザック・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・その一部が書き上げられて印刷に付せられた昨年の冬、オストロフスキーの高潔な生涯は終ったのであった。 一九一七年以来、ロシアは新しい社会の建設につれて過去の世界文学の歴史が持たなかった種類の文学作品とその作家とを世界に与えている。「赤色親・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・を出すために活動し、有名な「何を為すべきか」を書き上げた頃である。ゴーリキイは「小市民」、「どん底」と続けて戯曲を書いた。ゴーリキイといえば「どん底」と応ずるくらい世界に知られた傑作であるが、この戯曲の成功によって得た金で彼は「ズナーニエ」・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫