・・・さて今回本紙に左の題材にて貴下の御寄稿をお願い致したく御多忙中恐縮ながら左記条項お含みの上何卒御承引のほどお願い申上げます。一、締切は十二月十五日。一、分量は、四百字詰原稿十枚。一、題材は、春の幽霊について、コント。寸志、一枚八円にて何卒。・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・という水泳の伝書を読んでいたら、櫓業岩飛中返などに関する条項の中に「兼ねて飛びに自在を得る時は水ぎわまでの間にて充分敵を仕留めらるるものなり」とか、「船軍の節敵を組み落とし、水ぎわまでの間にて仕留めるという教えはよほど飛びに自在を得ざれば勝・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・当時R研究所での仕事に聯関して金米糖の製法について色々知りたいと思っていたところへ、矢島理学士から、西鶴の『永代蔵』にその記事があるという注意を受けたので、早速岩波文庫でその条項を読んでみた。そのついでにこの書のその他の各条も読んでみるとな・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・重力分布や垂直線偏差から推測さるるイソスタシーの状態、地殻潮汐や地震伝播の状況から推定さるる弾性分布などがわずかにやや信ずべき条項を与えているに過ぎない。かくのごとく直接観測し得らるべき与件の僅少な問題にたいしては種々の学説や仮説が可能であ・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・応募者の試験委員たちの採点表中に容貌の条項はあっても腕の条項がないかもしれないが、少なくも食堂の場合には、これも一つのかなりの程度まで考慮さるべきアイテムとなるべきものかもしれない。 器量のよくないので美しい腕の持ち主もある一方ではまた・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・文学上の述作を批判するにあたって批判すべき条項を明かに備えねばならぬ。あたかも中学及び高等学校の規定が何と何と、これこれとを修め得ざるものは学生にあらずと宣告するがごとくせねばならん。この条項を備えたる評家はこの条項中のあるものについて百よ・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・と題する一篇を草して批評すべき条項の複雑なる由を説明した。この篇は写生文を品評するに当ってその条項の一となるべき者を指摘してわが所論の応用を試みたものである。 夏目漱石 「写生文」
・・・しばらくこの二要素を文学の方へかためて申しますと、推移の法則は文学の力学として論ずべき問題で、逗留の状態は文学の材料として考えるべき条項であります。双方とも批評学の発達せぬ今日は誰も手を着けておりませんから、研究の余地は幾らでもあります。私・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・は、子無きは去る、という条項を承認して女にのぞんでいた。再びその不条理な不安が、子のない妻たちをさいなもうとするのであろうか。 そうでなくても、子供のもてない不安で、これまで夫婦の生活に神経をつかっていた多くの妻たちは、この頃のような声・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・ 更に、この条項を眺めていると、私たちの心には、まざまざと先頃厚生大臣から発表された最低賃銀の規定が浮んで来る。男子三〇歳―五〇歳、四百五十円。女子一五〇円と。「人」といううちに、女子を含まないはずはない。人というなかに、三〇歳未満の青・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
出典:青空文庫