・・・ 強固に、深刻に人生の意識、人類の内容を考察する者が、どうしてよい気持になって、今更過去のお染久松、お夏清十郎の恋の唄を、我等、人類の恋愛理想の極致だと云えよう。また、或る性的生活に対する反省と、革新との意気とが、次第に密に不可抗の中で・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・ 同じ古本のつみ重りの下から、池辺義象の『仏国風俗問答』明治三十四年版と、明治二十五年発行の森鴎外『美奈和集』、同じ人の三十五年二月発行『審美極致論』が埃にまびれて現れた。「当世書生気質」を収録した『太陽』増刊号の赤いクロースの厚い菊判・・・ 宮本百合子 「本棚」
・・・わたくしはこの透明さが表現の極致ではないかと考えている。ちょうど無色透明で歪みのない窓ガラスが外の景色を最も鮮やかに見せてくれるように、表現の透明さは作者の現わそうとするものを最も鮮明に見せてくれる。また透明であればあるほどそこにガラスのあ・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
・・・文章の円熟に打たれる。文章の極致は、透明無色なガラスのように、その有を感ぜしめないことである。我々はそれに媒介せられながらその媒介を忘れて直接に表現せられたものを見ることができる。著者の文章は、なお時々夾雑物を感じさせるとはいえ、著しくこの・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
出典:青空文庫