・・・ 事実はとにかく、このような連関は鉄道省とそれを統率する内閣とが一つの有機体である以上可能なことである。 いつか自分の手指の爪の発育が目立って悪くなり不整になって、たとえば左の無名指の爪が矢筈形に延びたりするので、どうもおかしいと思・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・科学という霊妙な有機体は自分に不用なものを自然に清算し排泄して、ただ有用なるもののみを摂取し消化する能力をもっているからである。しかしもしも万一これら質的研究の十中の一から生まれうべき健全なるものの萌芽が以上に仮想したような学風のあらしに吹・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・恰も有機体に於ての様に、全体が一となることは各自が各自自身となることであり、各自が各自自身となることは全体が一となることである。私の世界と云うのは、個性的統一を有ったものを云うのである。世界的世界形成の原理とは、万邦各その所を得せしめると云・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・無機体では白金だし有機体では豚なのだ。考えれば考える位、これは変になることだ。」 豚はもちろん自分の名が、白金と並べられたのを聞いた。それから豚は、白金が、一匁三十円することを、よく知っていたものだから、自分のからだが二十貫で、いくらに・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・けれども、実際にあたると、文化は複雑な有機体であって、建設的である過程も甚だいりくんでいる。 この間こんな話をきいた。明日の日本の文化と精神の建設について研究してそのための役についている人から、日本人にはもっとシェークスピアを理解させな・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・ソヴェト作家シーモノフは、このアメリカの巨大な有機体のなかに入って、自身の社会主義的自覚を、自身の人間的内在性すべての亢奮をとおし、自然発生の諸眩惑と誘惑とをとおして、対決させないわけにはゆかない。自身の理性の最大を働かすだけの刺戟をうける・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ プロレタリア文学運動を退潮せしめた力は、社会情勢の有機体の内でやはりブルジョア文学をも萎縮させざるを得ない実際となった。一般人の生活水準の低下と社会的自主性の低減は、日本のブルジョア文学の独特な伝統が、ヨーロッパのイッヒ・ロマンとはま・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・後者は、極地着陸のトップを切ろうと焦って、機体の検査をしなかったので、遭難してしまう。「俺はブリノフでなく、ベスファミーリヌイにならなくちゃならない」そう思いながらヴォドピヤーノフは、書きつづけて、北極征服の空想小説「操縦士の空想」をかき上・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・ ところが、いわゆる、境遇の変化という通路によって、新たな有機体の中に這いったものは、そう容易に自己の場所を心的に見出し得るものではないと思います。押され自らも押し、種々な力の牴触を経て、しっくりと或る処に真から落付く。それから徐ろに周・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・また、海軍との関係の成立した日の腹痛の翌日、新飛行機の性能実験をやらされたとき、栖方は、垂直に落下して来る機体の中で、そのときでなければ出来ない計算を四度び繰り返した話もした。そして、尾翼に欠点のあることを発見して、「よくなりますよ。あの飛・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫