・・・それだけが今度の残務だった。「登記所の方がすんだら、明日はどうしましょうか」「そうねえ、こんな場合はどこへも寄らないものだというから、また出なおしてくるまでもひとまず帰ろうか。来た時と方面を変えて、奥羽線で一直線に帰ろうじゃないか。・・・ 葛西善蔵 「父の葬式」
・・・もし現在の科学の所得は、すでに科学の究極的に獲得しうるすべての大部分であると考え、吾人の残務はただそこかしこの小さい穴を繕うに過ぎぬと考えればプランクの説はもっともと思われる。しかしそう考えるだけの確かな根拠があるかどうか自分には疑わしい。・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・階下の戸を開けっ放した室で年とった四角の体の男が時々来て残務整理をやった。 ――御承知のような現状で坑夫組合はこの学校で三十人前後教育するために年三四千ポンドを負担するに堪えなくなったのです。昨今の形勢では折角それらの人々を教育してもか・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫