・・・必ず新橋から京橋までの間に、左側に三個所、右側に一個所あって、しかもそれが一つ残らず、四つ辻に近い所ですから、これもあるいは気流の関係だとでも、申して申せない事はありますまい。けれどももう少し注意して御覧になると、どの紙屑の渦の中にも、きっ・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・ややしばらく凝視っているうちに、彼の心の裡のなにかがその梢に棲り、高い気流のなかで小さい葉と共に揺れ青い枝と共に撓んでいるのが感じられた。「ああこの気持」と喬は思った。「視ること、それはもうなにかなのだ。自分の魂の一部分あるいは全部がそ・・・ 梶井基次郎 「ある心の風景」
・・・特に美濃近江の国境の連山は、地形の影響で、上昇気流を助長し、雪雲の生成を助長するのであろう。 また伊吹山観測所で霧を観測した日数を調べてみると、四か年間の平均で、冬季三か月間につき七六、八日となっている。つまり冬じゅうの約八割五分は伊吹・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・ここで気流が戦って渦を巻いているのであろう。 日によってはまた、浅間の頂からちょうど牡丹の花弁のような雲の花冠が咲き出ていることもある。それからまた、晴れた日に頂上が全く見えないことがあるかと思うと、雨の降るのに頂上までありあり見えるこ・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・例えば短時間の強い光源としてのアンダーソンの針金の電気爆発を使う代りに水銀のフィラメントの爆発を使ったり、また電扇の研究と聯関して気流の模様を写真するために懐炉灰の火の子を飛ばせるといったようなことも試みた。無闇に読みもしない書物を並べ立て・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ もっとも、地上数メートルの間では風速は地面から上へと急激に増すから、電線の高さでは人間の感ずるよりはいくらか強い気流があるには相違ない。 谷あいの土地であるから地形により数町はなれると風向がよほどちがう場合が多い。そういう場合に、・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・灰の微粒と心核の石粒とでは周囲の気流に対する落下速度が著しくちがうから、この両者は空中でたびたび衝突するであろうが、それが再び反発しないでそのまま膠着してこんな形に生長するためには何かそれだけの機巧がなければならない。 その機巧としては・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・比重は無論空気に比べて著しく大きいが、その体積に対して面積が割合に大きいために、空気の摩擦の力が重力の大部分を消却し、その上到るところに渦のような気流があるために永く空中に浮游しうるのである。その外に煙突の煙からは煤に混じて金属の微粒も出る・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・ これらの根本的決定因子を知るには一体どこを捜せばよいかというと、それはおそらく颱風の全勢力を供給する大源泉と思われる北太平洋並びにアジア大陸の大気活動中心における気流大循環系統のかなり明確な知識と、その主要循環系の周囲に随伴する多数の・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・が立つのは、壁や屋根が熱せられると、それに接した空気が熱くなって膨脹してのぼる、そのときにできる気流のむらが光を折り曲げるためなのです。 このような水や空気のむらを非常に鮮明に見えるようにくふうすることができます。その方法を使って鉄砲の・・・ 寺田寅彦 「茶わんの湯」
出典:青空文庫