・・・ガード下の空地に茣蓙を敷き、ゴミ箱から漁って来た残飯を肴に泡盛や焼酎を飲んでさわぐのだが、たまたま懐の景気が良い時には、彼等は二銭か三銭の端た金を出し合って、十銭芸者を呼ぶのである。彼女はふだんは新世界や飛田の盛り場で乞食三味線をひいており・・・ 織田作之助 「世相」
・・・多く夏の釣でありますから、泡盛だとか、柳蔭などというものが喜ばれたもので、置水屋ほど大きいものではありませんが上下箱というのに茶器酒器、食器も具えられ、ちょっとした下物、そんなものも仕込まれてあるような訳です。万事がそういう調子なのですから・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・おもに屋台のヤキトリ屋で、泡盛や焼酎を飲み、管を巻いていたのである。私は東京に於いて、彼の所謂「女で大しくじり」をして、それも一度や二度でない、たび重なる大しくじりばかりして、親兄弟の肩身をせまくさせたけれども、しかし、せめて、これだけは言・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・彼のみ、太宰ならばこの辺で、襟掻きなおして両眼とじ、おもむろに津軽なまり発したいところさ、など無礼の雑言、かの虚栄の巷の数百の喫茶店、酒の店、おでん支那そば、下っては、やきとり、うなぎの頭、焼ちゅう、泡盛、どこかで誰か一人は必ず笑って居る。・・・ 太宰治 「創生記」
・・・此奴、柄にもなく泡盛なんか喰いやがって……」「フッ! 臭せェ!」 誰かの上に吐いたのだ。 自分は今野の体が心配で半分そっちへ注意を引かれた心持で朝十分間体操をやる。病気になってはならない。益々そう思うようになった。 十時・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・したがって、指紋と犯罪の容疑とは密着したものである。泡盛によっぱらって、留置場のタタキの上で一晩中あばれていただけの者が、警察にとまったからと云って指紋はとられなかった。 盗んだ、殺した、火をつけたという事件の容疑者が指紋をとられた、と・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・上諏訪二業 歌舞伎家ではさきに 宗之助 初代福助の菊五郎の二人が古巣恋しくて舞戻ったが、今度は又初代勘彌が云々 茅野 山の裾から盆地に雪が一面、そこに藁塚が関東のとは違い大きな泡盛のびんのような形で黒く沢山ある。遠く・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
出典:青空文庫