・・・いまここで、この親友を怒らせ、戸障子をこわすような活劇を演じたら、これは私の家では無し、甚だ穏やかでない事になる。そうでなくても、子供が障子を破り、カーテンを引きちぎり、壁に落書などして、私はいつも冷や冷やしているのだ。ここは何としても、こ・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・いかなる名優の活劇でも、これに比べてはおそらく茶番のようなものである。それからの後の場面で荒涼たる大雪原を渡ってくるトナカイの大群の実写は、あれは実に驚くべき傑作である。理屈なし説明なしに端的にすべての人の心を奪う種類のフィルムであり、活動・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・だがせっかくのこのおもしろい場面をつまらぬこしらえものの活劇で打ちこわしてしまっているのは惜しいことである。ラマ僧の舞踊の場面でも同様によけいな芝居が現実の深刻味を破壊してしまっている。 回教徒が三十日もの間毎日十二時間の断食をして、そ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・拷問の後にほうり込まれた牢獄の中で眼前に迫る生死の境に臨んでいながらばかげた油虫の競走をやらせたりするのでも決してむだな插話でなくて、この活劇を生かす上においてきわめて重要な「俳諧」であると思われる。最後のトニカを響かせる準備の導音のような・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・そのほかに、たとえば、飲んだくれの亭主が夜おそく帰って来て戸をたたくと女房のクサンチペがバルコンから壺の中の怪しい液体をぶっかけ、結局つかみ合いになるという活劇をもわずかな小道具と背景を使って映し出して見せた。この同じ見せものにその後米国へ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・のニュースが見つからない場合に、めんどうな脚色と演出によって最もセンセーショナルな社会面記事に値するような活劇的事件を実際にもちあがらせそれがためにかわいそうな犠牲者を幾人も出したことさえ昔はあったといううわさを聞いたことがある。ジャーナリ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・観客のどよみも同じく空間を描き出す効果があるのみならず、その音の強弱緩急の波のうち方で土俵の上の活劇の進行の模様が相撲に不案内なわれわれにもよくわかるような気がする。それでこの放送では、むしろ観客群集のほうが精神的に主要な放送者であって、ア・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・その止まり方がまた実に突然で今までの活劇がまるで嘘であったように思われた。そのときの不思議な気持だけは今でもはっきり思い出すことが出来る。人間の感情の噴出でもこれに似た現象があるような気がするのである。 日露戦争直後で負傷者が大勢療養に・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・ たちまち眼の前に一つの争闘の活劇が起った。同じ薔薇の上に何物かを物色していた濃褐色の蜂が、突然ほとんど何の理由とも分らず、またなんらの予備行為もなく、いきなりこの蜥蜴の背に飛びかかった。そして右の後脚の附根と思う辺を刺したように見えた・・・ 寺田寅彦 「蜂が団子をこしらえる話」
・・・僕は人生の活劇の舞台にいたことはあっても、役らしい役をしたことがない。高がスタチストなのである。さて舞台に上らない時は、魚が水に住むように、傍観者が傍観者の境に安んじているのだから、僕はその時尤もその所を得ているのである。そう云う心持になっ・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫