・・・「昨夜は怖ろしい海鳴りがしたから、なにか変わったことがなければいいと思った。」と、老人がいっていました。「よくこの荒波の上を航海して、この港近くまでやってきたものだ。なにか用があって、この港にきたものだろうか。」と、一人がい・・・ 小川未明 「黒い旗物語」
・・・夜になると、ますます風が募って、沖の方にあたって怪しい海鳴りの音などが聞こえたのであります。 その明くる日も、また、ひどい吹雪でありました。五つの赤いそりが出発してから、三日めに、やっと空は、からりと明るく晴れました。 三人の行方や・・・ 小川未明 「黒い人と赤いそり」
・・・ そういう晩によく遠い沖の海鳴りを聞いた。海抜二百メートルくらいの山脈をへだてて三里もさきの海浜を轟かす土用波の音が山を越えて響いてくるのである。その重苦しい何かしら凶事を予感させるような単調な音も、夕凪の夜の詩には割愛し難い象徴的景物・・・ 寺田寅彦 「夕凪と夕風」
出典:青空文庫