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・・・いや、東京の夜の秘密を一通り御承知になった現在なら、無下にはあなたも私の話を、莫迦になさる筈はありますまい。もしまたしまいまで御聞きになった上でも、やはり鶴屋南北以来の焼酎火のにおいがするようだったら、それは事件そのものに嘘があるせいと云う・・・
芥川竜之介
「妖婆」
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・・・ その日の夕暮に一城の大衆が、無下に天井の高い食堂に会して晩餐の卓に就いた時、戦の時期は愈狼将軍の口から発布された。彼は先ず夜鴉の城主の武士道に背ける罪を数えて一門の面目を保つ為めに七日の夜を期して、一挙にその城を屠れと叫んだ。その声は・・・
夏目漱石
「幻影の盾」