・・・学生達は民衆を叡知と、精神美と善良との化身のように話すのであったが、ゴーリキイが物心つくとからその日までその中に揉まれ、それと闘って来た現実生活の下で、彼は「このような民衆を知らなかった」のである。 一八八〇年代のロシアにおける急進的な・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・ これは物心の少ない少女だけではない。立派な大学生が、往来で、われわれのブルジョアの尻馬にのり、いい気になって寄附募集のメガホンをふいている。 ブルジョアが経営している劇場東京劇場は早速御用劇「満蒙事件」を上演する。ブルジョア新聞で・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
・・・ が、他の人の気を兼ねるという傾向は、右のような好みにのみ基づくのではあるまい。物心がついて以後の藤村の生い立ちの苦労が、この傾向と深く結びついているであろう。『桜の実の熟する時』や『春』などで見ると、藤村はその少年時代や青年時代を他人・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
・・・彼が物心がついた時には祖父はもう七十以上で、その後二十年の間、この界隈の老人が死ぬごとに、幾度となく祖父の感慨を聞いたものでした。昔の同じ時代を知っているものが、もうたった三人になった、二人になった、一人になった、自分ひとり取り残された! ・・・ 和辻哲郎 「土下座」
出典:青空文庫