・・・それを特筆するムアアを思うと、坐ろに東西の差を感ぜざるを得ない。 大作 大作を傑作と混同するものは確かに鑑賞上の物質主義である。大作は手間賃の問題にすぎない。わたしはミケル・アンジェロの「最後の審判」の壁画よりも遥かに六・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 世界の歴史に特筆されべき二大戦役を通過した日本の最近二十五ヵ年間は総てのものを全く一変して、恰も東京市内に於ける旧江戸の面影を尽く亡ぼして了ったと同様に、有らゆる思想にも亦大変革を来したが、生活に対する文人の自覚は其の重なる事象の一つ・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・新言語を用い新趣向を求めたる彼の卓見は歌学史上特筆して後に伝えざるべからず。彼は歌人として実朝以後ただ一人なり。真淵、景樹、諸平、文雄輩に比すれば彼は鶏群の孤鶴なり。歌人として彼を賞賛するに千言万語を費すとも過賛にはあらざるべし。しかれども・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ 芭蕉が創造の功は俳諧史上特筆すべきものたること論を竢たず。この点において何人かよくこれに凌駕せん。芭蕉の俳句は変化多きところにおいて、雄渾なるところにおいて、高雅なるところにおいて、俳句界中第一流の人たるを得。この俳句はその創業の功よ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・その上彼自身が率直に認めている性根の弱さ、そして彼に関するあらゆる伝記者がツルゲーネフの進歩的なものに対する敏感さとともに特筆している意志の弱さ、優柔不断な気質などが作用して、彼は同時代の西欧派に属する芸術家、思想家でもニェクラーソフやベリ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 文学史の面から見ても、日本の一九三三――三四年は特筆されるべき内容をもった二年であった。一九三三年の初夏、佐野学・三田村・鍋山等の共産主義者としての理論の抛棄と日本の侵略戦争を肯定する画期的な裏切りは、勤労階級の解放運動に未曾有の頓挫・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫