・・・木村は息も衝けない程用事を持っている。応募脚本を読んでいる時間はない。そんな時間を拵えるとすれば、それは烟草休の暇をそれに使う外はない。 烟草休には誰も不愉快な事をしたくはない。応募脚本なんぞには、面白いと思って読むようなものは、十読ん・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・正当に死ねるはずの時が来て死んだものには、そんな権利は無い、もう用事が無いはずだからな。自殺したものとなるととかく何かしら忘れて来るものだ。そのために娑婆のものが迷惑するかも知れない。どうだな。」役人はこわい目をしてツァウォツキイを見た。自・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・ 秋三はお霜の来た用事を悟ると痛快な気持が胸に拡った。彼はにやにやしながら云った。「にじりつけるか。勘が引受けよったのやないか。勘に訊いてみい、勘に。」「連れて来んもの、誰が引受けるぞ。」「そりゃお前、お前とこが株内やで俺が・・・ 横光利一 「南北」
・・・物見高い都会のことであるから、いそがしい用事を控えた人までが何事かと好奇心を起こしてのぞきにくる。老人は怒りの情にまかせて過激な言を発せぬとも限らぬ。例えば中岡良一を賞讃して、彼はまことに国士であった、志士であった、というようなことを言い出・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫