・・・……振返ると、白浜一面、早や乾いた蒸気の裡に、透なく打った細い杭と見るばかり、幾百条とも知れない、おなじような蛇が、おなじような状して、おなじように、揃って一尺ほどずつ、砂の中から鎌首を擡げて、一斉に空を仰いだのであった。その畝る時、歯か、・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・ これと似た談が房州にもある、何でも白浜の近方だったが、農夫以前の話とおなじような事がはじまった、家が、丁度、谷間のようなところにあるので、その両方の山の上に、猟夫を頼んで見張をしたが、何も見えないが、奇妙に夜に入るとただ猟夫がつれてい・・・ 泉鏡花 「一寸怪」
・・・という言い方をもう一度使いますと、流れ流れて南紀の白浜の温泉の宿の客引をしている自分を見出しました。もっともその三年の間、せっせと金を貯めて、その金を持っておおぴらに文子に会いに行こうと思わなかった日は、一日とてなかった。宿の女中などと関り・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
随分昔のことであるけれども、房州の白浜へ行って海女のひとたちが海へ潜って働くのや天草とりに働く姿を見たことがあった。 あの辺の海は濤がきつく高くうちよせて巖にぶつかってとび散る飛沫を身に浴びながら歌をうたうと、その声は・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・ 子供のうちから私を知り、白浜の海岸や飯坂の温泉に長い旅行を一緒にしたことなどのある彼女は、私を、深く愛して居るように見える。母が、私の身の上を心配し、泣き乍らAの不満なこと、殆ど悪人に近いような観察を話されると、半信半疑になってしまう・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
出典:青空文庫