・・・ まだ何か望みがあり、盛り返せるかもしれないという未練が残っていたときには、懸命に稼ぐ気にもなり、怨む気もしたけれども、こうまで落ちきってしまえば、絶望した彼女の心は自棄になるほかない。「へん海老屋の鬼婆あ! 何んもはあねえくな・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 現代の独占資本という魔ものがひきおこすあらゆる混乱と矛盾を、魔もののしきたりの下で解決しようと、そのために時間を稼ぐ一つの手段として、それをきいただけでも身の毛のよだつ戦争という脅しの大凧があげられているわけである。 こういう・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・「あれは、後家の女主人公が、うんと働いて稼ぐけれども、それで自分もはたも不幸になってゆく話だったろう?」「そうだわ」 ちょっと黙って、重吉は、ごく普通な調子で座席からひろ子を見ながら、「ひろ子に、なんだか後家のがんばりみたい・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・波止場で十五哥、二十哥を稼ぐことは容易であった。そこで、荷揚人足、浮浪人、泥棒の間に自分を置き、ゴーリキイは後年この時代のことを、次のように書いている。「私は赤熱された石炭の中に入れられた鉄の一片としての自分を感じた」「そこでは私の前に裸に・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・そこで一五、二〇カペイキ稼ぐことは容易であった。」と。 これらの波止場人足や浮浪人、泥棒、けいず買い等の仲間の生活は、これまで若いゴーリキイがこき使われて来た小商人、下級勤人などのこせついた町人根性の日暮しとまるでちがった刻み目の深さ、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・学生とゴーリキイとは夜昼交代にそこへ寝て、ゴーリキイはヴォルガ河の波止場の人足をやって十五カペイキ、二十カペイキと稼ぐ。――ロシア人はヴォルガ河を「母なるヴォルガ」と呼んで愛するが、ゴーリキイの半生のさまざまな場面は洋々としたヴォルガの広い・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・そこで十五――二十哥を稼ぐことは容易であった。」 幼年時代は祖父の家の恐ろしい慾心の紛糾を目撃し、転々と移ったこれまでの仕事の間では小市民的な日暮しのあくせくした猜疑に煩わされて来た。十五のゴーリキイにとって、これらの荷揚人足、浮浪人、・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・小さい稼がぬ人間と稼いでも稼いでも碌な飯の食えない人間と稼ぎたくても稼ぐに道のない人間とがあるだけだ。 ヴィクトリア公園を二分する道路のあちら側に鉄門があって、そっちに草原がひろがっていた。おふくろのを仕立直したスカートをつけたお下髪の・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫