年中借金取が出はいりした。節季はむろんまるで毎日のことで、醤油屋、油屋、八百屋、鰯屋、乾物屋、炭屋、米屋、家主その他、いずれも厳しい催促だった。路地の入り口で牛蒡、蓮根、芋、三ツ葉、蒟蒻、紅生姜、鯣、鰯など一銭天婦羅を揚げ・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・「でも近頃は節季近くと違って、幾らか閑散なんだろうね。それに一体にこの区内では余り大した事件が無いようだが、そうでもないかね?」「いや、いつだって同じことさ。ちょい/\これでいろんな事件があるんだよ」「でも一体に大事件の無い処だ・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・暮れの節季には金がいるから十二月は日を詰めて働いたのであった。それに、前月分も半分は向うの都合でよこしていなかった。今、一文も渡さずに放り出すのは、あまりに悪辣である。健二は暫らく杜氏と押問答をしたが、結局杜氏の云うがまゝになって、男部屋へ・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・ 三 木代が、六十円ほどはいったが、年末節季の払いをすると、あと僅かしか残らなかった。予め心積りをしていた払いの外に紺屋や、樋直し、按摩賃、市公の日傭賃などが、だいぶいった。病気のせいで彼はよく肩が凝った。で、しょ・・・ 黒島伝治 「窃む女」
京一が醤油醸造場へ働きにやられたのは、十六の暮れだった。 節季の金を作るために、父母は毎朝暗いうちから山の樹を伐りに出かけていた。 醸造場では、従兄の仁助が杜氏だった。小さい弟の子守りをしながら留守居をしていた祖母・・・ 黒島伝治 「まかないの棒」
出典:青空文庫