・・・が、少年の筆らしくない該博の識見に驚嘆した読売の編輯局は必ずや世に聞ゆる知名の学者の覆面か、あるいは隠れたる篤学であろうと想像し、敬意を表しかたがた今後の寄書をも仰ぐべく特に社員を鴎外の仮寓に伺候せしめた。ところが社員は恐る恐る刺を通じて早・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
熊本高等学校で夏目先生の同僚にSという○物学の先生がいた。理学士ではなかったがしかし非常に篤学な人で、その専門の方ではとにかく日本有数の権威者だという評判であった。真偽は知らないが色々な奇行も伝えられた。日本にたった二つと・・・ 寺田寅彦 「埋もれた漱石伝記資料」
・・・故人北原多作氏のごとき少数な篤学の官吏の終生の努力と熱心によってようやく水産に聯関した海洋調査がやや系統的に行われるようになりはしたが、自分の知る限りでは時々の政府の科学的理解のない官僚の気まぐれなその日その日の御都合による朝令暮改の嵐にこ・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・日本文学史全巻を担当される近藤忠義が、篤学、正確な視点をもたれる学者であることは、読者にとっての幸運であるし、同時に今日の文学の諸相のみを扱う私にとって一つの幸な安心である。〔一九三七年十月〕・・・ 宮本百合子 「意味深き今日の日本文学の相貌を」
出典:青空文庫