・・・ どの小道へ曲っても、乾いた太陽と風とがある。 粘土と平ったい石片とで築かれたアラビア人の城砦の廃墟というのへ登り、風にさからって展望すると、バクーの新市街の方はヨーロッパ風の建物の尖塔や窓々で燦めいている。けれども目の下の旧市街は・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ けれ共、その中央の深さは、その土地のものでさえ、馬鹿にはされないほどで、長い年月の間に茂り合った水草は小舟の櫂にすがりついて、行こうとする船足を引き止める。 粘土の浅黒い泥の上に水色の襞が静かにひたひたと打ちかかる。葦に混じって咲・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・何だか粘土質らしい、敷石はずれの地びたの上に、古びた木造の犬小舎がある。 私は、その門から男も女も、活々した姿を現したのを嘗て一瞥したことさえない。門扉が開き、まして近頃はアンテナさえ張ってあるのが見えるから、確に人はいるのだ。それにも・・・ 宮本百合子 「吠える」
・・・砂や小石は多いが、秋日和によく乾いて、しかも粘土がまじっているために、よく固まっていて、海のそばのように踝を埋めて人を悩ますことはない。 藁葺きの家が何軒も立ち並んだ一構えが柞の林に囲まれて、それに夕日がかっとさしているところに通りかか・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
埴輪というのは、元来はその言葉の示している通り、埴土で作った素焼き円筒のことである。それはたぶん八百度ぐらいの火熱を加えたものらしく、赤褐色を呈している。用途は大きい前方後円墳の周囲の垣根であった。が、この素焼きの円筒の中には、上部を・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
・・・ 元来仏像はギリシア彫刻の影響の下にガンダーラで始まったのであるが、初期には主として石彫であって、漆喰や粘土を使う塑像は少なかった。がこの初期のガンダーラの美術は、三世紀の中ごろクシャーナ王朝の滅亡とともにいったん中絶し、一世紀余を経て・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫