・・・いつの時代でも、より精練された心情はより想像力に富んでいるから、当時の日本の知性は、ファシズムの野蛮さをめいめいの肉体の上に痛みとして感じ、不潔さとして嫌悪し、拷問を描いて恐怖した。日本の治安維持法は、実際に作家さえ虐殺したのだから。 ・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・また日本画家が目前の自然に対して忠実でないのは、その浪漫的な素質のゆえに、目前の卑俗な形象よりも、歴史的に偉大な、思想的に豊富な、あるいは詩的に精練せられた形象の方を、より重大に、より美しく感ずるからである。そうしてまたその手法が、この目的・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・その後仏教の興隆とともにますます芸術的精練を加えた「偶像」が、いかにわれらの祖先の心に美的魅力を投げ掛けたかは想像するに難くない。ほとんど芸術を持たなかった野蛮人が、たちまちにして生にあふれた芸術品の持ち主となったのだから。 試みに見よ・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・の上でますます精練と簡潔と円熟とを加えて来た四五の作家を眼中に置いて考えてみよう。彼らは皆人生を底まで見きわめたようにふるまっている。彼らはさまざまな社会現象を詳らかに巧妙に描写する腕を持っている。しかし彼らが社会の裏に住む無恥な女を描き、・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・それは伎楽面よりも精練された美しさであるとも言えるであろうし、また伎楽面に比してひねくれた美しさであるとも言えるであろう。だからこの美しさに味到した人は、しばしば逆に伎楽面を浅ましいと呼ぶこともある。能面に度を合わせた眼鏡をもって伎楽面を見・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
出典:青空文庫