・・・午后一時に約束の通り各班が猿ヶ石川の岸にあるきれいな安山集塊岩の露出のところに集った。どこからか小梨を貰ったと云って先生はみんなに分けた。ぼくたちはそこで地図を塗りなおしたりした。先生はその場所では誰のもいいとも悪いとも云わなかった・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・ヨーロッパから最近帰って来たある日本人が、今日の日本をみて、みんなの生活が無計画で、食えないといいながらたかいタバコをプカプカふかしている、政府はから約束をして、内閣がかわればそのまますっぽかしている。雑誌をひらけば現実生活と縁のない理屈を・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・某申候は、武具と香木との相違は某若輩ながら心得居る、泰勝院殿の御代に、蒲生殿申され候は、細川家には結構なる御道具あまた有之由なれば拝見に罷出ずべしとの事なり、さて約束せられし当日に相成り、蒲生殿参られ候に、泰勝院殿は甲冑刀剣弓鎗の類を陳ねて・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・わたくしの約束した女房を附け廻していた船乗でした。」「そのお上さんになるはずの女はどうなったかね。」 エルリングは異様な手附きをして窓を指さした。その背後は海である。「行ってしまったのです。移住したのです。行方不明です。」「それ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・自分は谷川君との約束を幾度か延ばし延ばししていた罰でこんな羽目になった。しかし軽井沢に避暑している人たちがまさかこんな日に出歩くとは思わなかった。まして寺田さんの一行が自分と同じく北軽井沢までも行かれるとは全然思いがけなかった。ところが聞い・・・ 和辻哲郎 「寺田さんに最後に逢った時」
出典:青空文庫