・・・ ブドリは主人に言われたとおり納屋へはいって眠ろうと思いましたが、なんだかやっぱり沼ばたけが苦になってしかたないので、またのろのろそっちへ行って見ました。するといつ来ていたのか、主人がたった一人腕組みをして土手に立っておりました。見ると・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ そして納屋から唐鍬を持ち出してぽくりぽくりと芝を起して杉苗を植える穴を掘りはじめました。 虔十の兄さんがあとを追って来てそれを見て云いました。「虔十、杉ぁ植える時、掘らなぃばわがなぃんだじゃ。明日まで待て。おれ、苗買って来てや・・・ 宮沢賢治 「虔十公園林」
・・・広場の奥の大きい厩か納屋だったらしい建物があって、そこが、今はすっかり清潔に修繕されて、運動具置場になっている。「懸垂」などもそこにおかれている。 教室へ入って行って見ると、仕事着を着た男女生徒が、旋盤に向って注意深く作業練習をしている・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・仙二の家の納屋をなおした小屋に沢や婆は十五年以上暮していた。一月の三分の二はよその屋根の下で眠って来た。夏が去りがけの時、沢や婆さんは腸工合を悪くして寝ついた。何年にもない事であった。一日二日放って置いた仙二夫婦も、四日目には知らない顔を仕・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・一、集団農場員が冬の間に入用な薪を切り出す附近の森林はただで貰える。納屋、小舎等はただで貰う。一、種、肥料などは非常にやすく、政府がくれる。一、集団農場員の家族で働けない者がある時はそれは集団農場全体が責任をもって養う。一、・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・ マークの死後、放心の状態におかれたスーザンは、ある夜眠られぬままに、群像をこしらえかけたままにしておいた納屋へ、ランプをもって入っていく。マークはもうこの世にいない。その恐怖は何と寒く烈しいだろう。その恐怖からのがれる道は、スーにとっ・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・春の頃は空の植木鉢だの培養土だのがしかし呑気に雑然ころがっていた古風な大納屋が、今見れば米俵が軋む程積みあげられた貯蔵所になっていて、そこから若い棕梠の葉を折りしいてトロッコのレールが敷かれている。台の下に四輪車のついたものが精米をやってい・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・と云って暗い納屋に入ってしまった。 ただそれっきりだけれ共、濁声を張りあげて欠伸の出た事まで大仰に話す東北の此の小村に住む男達の中で私に一番強い印象をあたえたたった一人の男だった。 口取りと酢のもの 今日・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ 南向きの広場中には、日がカアッとさして、桔槹の影は彼方の納屋の荒壁を斜に区切って消えている。 二十日ほど前に誕生した雛共が、一かたまりの茶黄色のフワフワになって、母親の足元にこびりつきながら、透き通るような声で、 チョチョチョ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・祖母は、吹雪の時の用心に屋根瓦を見させたり、そこいらの納屋の壁や、野菜を入れて置く穴倉に手を入れさせた。毎朝来るトタン屋は、風呂場の樋だの屋根だのの手入をして居る。いかにも手が鈍い。東京の職人も煙草を吸う時間の永いには驚く様だけれ共、まして・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫