・・・広場の奥の大きい厩か納屋だったらしい建物があって、そこが、今はすっかり清潔に修繕されて、運動具置場になっている。「懸垂」などもそこにおかれている。 教室へ入って行って見ると、仕事着を着た男女生徒が、旋盤に向って注意深く作業練習をしている・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ やっと赤帽をつかまえ、少しずつ運んで貨物置場みたいなところへ行った。 ――どこへ行くんですか? ――日本の汽船へのるんだけれども、波止場は? あなた運んでは呉れないのか? 麻の大前垂をかけ、ニッケルの番号札を胸に下げて爺の・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・手を動している間じゅう、彼女は調味料の置場所や、味のこのみやその他を話してきかせた。千代は、実に従順にしとやかに一々「はい」と答えた。れんの遽しい今にも何かにつき当りそうなせき込んだはい、はいの連発ではない。艶のある眼で、流眄ともつかず注目・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・古い桜樹と幾年か手を入れられたことなく茂りに繁った下生えの灌木、雑草が、かたばかりの枸橘の生垣から見渡せた懐しいコローの絵のような松平家の廃園は、丸善のインク工場の壜置場に、裏手の一区画を貸与したことから、一九二三年九月一日の関東大震災後、・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・看守と雑役とが途切れ、途切れそのことについて話すのを、留置場じゅうが聞いている。二つの監房に二十何人かの男が詰っているがそれらはスリ、かっぱらい、無銭飲食、詐欺、ゆすりなどが主なのだ。 看守は、雑役の働く手先につれて彼方此方しながら、・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・花を新しく飾ったり、椅子の置き場所を代えたり、一つ部屋もなるたけ目先を変え心持よくして、午後からは接客をします。 着物もさっぱりしたのに更え、お茶と菓子との支度を客間にして、約束のある人や、その日を待って会いに来る人を待ちます。一週間の・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・上に営まれて来ているのだけれども、きょうは、そのめいめいが、どこかでつかまっていて離さなかった一本の綱を、公然と手繰りあってここに顔を合わせた、そういう、一種のつつましさと心はずみの混った雰囲気が材木置場のまわり、婦人たちの間にただよってい・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 屑拾いよりもっと有利な仕事は材木置場から薄板をかっ払うことであった。一日に二三枚は窃んで来られた。いい板一枚に家持の小市民は十哥ずつ呉れる。この仕事には仲のいい徒党があつまっていた。モルト人の乞食の十歳になる息子のサーニカ。大きい黒い・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・オカ河岸の材木置場から板切や薪をかっぱらった。「盗みということは場末町では決して罪悪とされていなかった。それは習慣であり、又半ば飢えている町人にとっての殆ど唯一の生活方法なのであった。」 靴屋の見習小僧。製図師の台所小僧兼見習。辛棒のな・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・またオカ河の材木置場から薄板を盗むこともやった。それで三十カペイキから半ルーブリを稼ぎ、銭は祖母にやる。――この時代の仲のよい稼ぎ仲間とのほこりっぽい、だが多彩な生活の思い出を後年ゴーリキイは長篇小説「三人」のうちにいきいきと描いている。・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫