・・・ちの人生であるならば、随分と生きて甲斐なき人生であると思うのだが、そしてまた、相当人気のある劇作家や連続放送劇のベテラン作家や翻訳の大家や流行作家がこんな紋切型の田舎言葉を書いているのを見ると、彼等の羞恥心なき厚顔無恥に一種義憤すら感じてし・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・それを拒もうとする羞恥心よりも、何かにすがりつきたいという本能の方が強いというのが、女の本性であることを、小沢は知っていた。 好奇心は女の方が強いのだ。しかも若い娘の場合は、一層はげしいのだ。 そう知っていながら、小沢はしかし腕を伸・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・やっぱり男は四十ちかくになると、羞恥心が多少麻痺して図々しくなっているものですね。十年前だったら、私はゆうべもう半狂乱で脱走してしまっていたでしょう。自殺したかも知れません。外八文字は、私がお詫びを言ったら、不機嫌そうに眉をひそめてちょっと・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・しかるに、世の中には羞恥心の全く欠けた雨蛙のような男がたくさんいて、ちかごろ、「狂的なひらめき。」を見せたる感想断片が、私の身のまわりにも二三ちらばり乱れて咲くようになった。あたかもそれが、すぐれたる作家のひとつの条件ででもあるかのように。・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・ アグネスは、アーネストと分れて後、成熟した一人の女として、性的な衝動を恥じる偽善に反撥を感じてからは、「この羞恥心に挑戦して立ち上って」「行為によって反抗した。」何人かの男と友愛から進んで同棲し、そして何人かのそれらの男のもとから去っ・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
出典:青空文庫