・・・その頃の彼の悪戯の傑作は、Milton の sonnets をそのまま自作のような顔をして田舎新聞に投書したことである。勿論新聞は夢にも知らずにそれを掲載した。 十五歳の頃から写真を始めてかなり身を入れてやった。その外の娯楽は乗馬、クリ・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・と、海道下りの一節を暗誦して人を驚すことが出来るが、その代り書きかけている自作の小説の人物の名を忘れたりまたは書きちがえたりすることがある。 鶯の声も既に老い、そろそろ桜がさきかけるころ、わたくしはやっと病褥を出たが、医者から転地療養の・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
去年の秋、谷崎君がわたくしの小説について長文の批評を雑誌『改造』に載せられた時、わたくしはこれに答える文をかきかけたのであるが、勢自作の苦心談をれいれいしく書立てるようになるので、何となく気恥かしい心持がして止してしまった・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・しかも音楽の初めの部分だけを近衛氏自作に変更するのだそうだ。兄もよろこぶだろうと、この芸術的プランをよろこんでいるのは、素朴である。こういうことを考えついたり、貴族院議員をやめたり、兄が兄がと亢奮して気の毒である。〔一九三七年七月〕・・・ 宮本百合子 「雨の小やみ」
・・・と各自、事件につながる自作予告をした。 センセーショナリズムは、内剛外屈の吉田内閣が民主化すてながしの一九四九年度筋書として極端にまで使用した方法でもあった。政治と文化とを一貫して、世相を押しきったこのような潮流は、一九四九年度の毎日文・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・などを吟味し、それらがどのように作者の意図を具体化しているか、成功しているかいないかを理解することによって自作のための有益な参考をひき出す場合も少くないだろう。それにしろわれわれの文学にはユーゴオが創作の法則と考えていたような固定した対立法・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・そういう尾崎自身はワシントンで議会訪問した折、国会図書館長のラップ氏から、同図書館に陳列されている自作の和歌をしたためた色紙を示されて、ニンマリ満足した上眼づかいの写真をうつされている。 帝政ロシアの貴族たちはフランス語で話した。中国の・・・ 宮本百合子 「長寿恥あり」
・・・戯曲家としての氏が、自作の上演に当って劇場側の態度がわるい場合、勝手に改作したり、無断上演したりした場合、法律的手段によっても作者としての正当な権利を主張して来ている例は今日迄一再に止まらない。最近にも、放送局との間に、同種類の問題が生じて・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・土地の有償自作創立案を政府が発表するや否や、日本中の大地主たちは、忽ち親族間に土地を分割しはじめた。そして小地主の土地をとり上げはじめた。 そもそも婦人参政権を認めたにしても、極めて形式的で誠意のないことにおどろかされる。婦人に参政権は・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・もし佐藤氏の弁明が弁明でないなら、自作の顔世があのようなおどけた失敗はするものではない。もっと理由のある失敗をするはずである。一作は次ぎの一作とは全く独立はしているとしても、作者の意識というものは左様に都合よく独立し得られるものだとは私には・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫